愛知県総合教育センター研究紀要 第92集

 予防・開発的教育相談の在り方に関する研究
          −構成的グループエンカウンターを中心にして−


1 研究の目的
 近年,児童生徒の問題行動の予防と能力の開発(発達援助)に生かそうとする教育相談の視点と手法が注目されるようになった。構成的グループエンカウンター(SGE) に代表される,各種の課題を遂行しながら,心のふれあいを深め,自己の成長を図ろうとするグループ体験である。
 また,学習指導要領では,児童生徒の人間関係をつくりつつ積極的に生きる力を育てるために,様々な体験的活動を通して人間関係を学ばせることを求めている。こうした面からも,早急に,多くの教師が,予防・開発的な教育相談の技法を身に付けたり,実施するための環境を整えたりすることが必要な時期にさしかかっていると考える。
 そこで,当センターでは,SGEをはじめとする各種のグループ体験とその振り返り活動を通して,児童生徒の対人関係や学校生活がどう変容していくのかを検証し,さらに,このような活動の実施に当たって,計画的な取組や内容の選定,展開等に関する留意点を明らかにすることを目的として研究に取り組んだ。

2 研究の内容と成果
 各校種の研究協力委員は,次のような視点に立ってSGE等の実践を行い数々の成果を得た。体験後の児童生徒は,学齢や校種を問わず,語ることによって自分や他者を受け入れていく感情をもった。
 グループ体験による課題の遂行とその後の振り返り活動によって,自己の変容に向けた動機付けがなされると考えたとき,SGE等の課題は,「振り返り」や「分かち合い」へ誘導するためのツールとしての役割を担うと考えることができる。しかし,動機付けがなされたからといって,それで日常行動の変容につながるかどうかは別問題として考えたい。
実践 @ 入学直後の人間関係を築く実践(小1・高1)
A 自己主張能力を高める実践(小5)
B 固定化した人間関係を改善する実践(小6)
C 自己理解や他者理解を促進する実践(中1)
D リーダーのつながり感覚を育てる実践(中1)
E 進路選択を支援する実践(中3)
F 自己受容を高める実践(高2)
G 学校生活への意欲を高める実践(高3)
成果 @ 学習したスキルが学級のルールとして定着し,実践力が高まった
A 学級の結束力が高まった
B 日常生活で表に出さない素直な心情を引き出すことができた
C お互いを認め合える雰囲気が出てきた
D 教師と生徒との心理的な距離を近くすることができた
感情 @ 自分の考えを話すことができた
A 自分の話をグループの人が聞いてくれた
B 人が自分をどう見ているのかが分かった
C 自分が人をどう見ているのかを話すことができた

 体験と振り返りによって揺さぶられた「心」を的確につかみ,それを次への行動に生かす力量を教師がもつことの重要性に改めて気付かされた。
 さらに,自己評価や感想,検査等で児童生徒の感情や実態を調査したとき,事後に児童生徒の学びや行動を観察し,教師自身の主観に基づいて改めて個々に評価をし直すことの重要性も浮かび上がった。指導に生かすアンケート等の価値は,事前事後の継続的な観察と適切な個別対応によって高まると考えることが妥当であろう。
 最後に,教師と児童生徒の人間関係を学校教育の中核と位置付けたとき,教師の心も不安に陥る場面は多々ある。教育相談の視点と手法を問題行動の予防と能力の開発(発達援助)に生かし,学級活動や授業の活性化を目指そうとするとき,指導者という立場にあっても子供と共に育とうという意識をもつことが必要であろう。