愛知県総合教育センター研究紀要 第92集

 環境意識を高める実験教材の検討
      −ポリエチレンテレフタレート(PET)を利用して−


はじめに
 ペットボトルは昨今,急激に利用度を増しているが,その回収率はアルミ缶やスチール缶に比べ少なく,市民レベルの意識改革が求められている。物理的変化を利用したペットボトルの実験は紹介されているが,化学的変化を利用した実験は少ないので,「PETのアルカリ加水分解」と「PETの分子量測定」を生徒実験として導入できないか検討した。環境意識を高める実験教材として,高等学校の探究活動や課題研究に導入する方法を紹介する。

1 研究の目的
PETを使った実験として,「ペットボトルを用いる再生繊維づくり」がよく知られており,当センターの環境教育講座でもこの実験を紹介している。しかし,この実験はPETの物理的変化を利用したものである。今回の研究では,ポリエチレンテレフタレートがテレフタル酸とエチレングリコールの縮合重合により化学合成された高分子化合物であることを理解させるため,高等学校の実験教材として導入することができるかどうか検討した。

2 研究の方法
 (1) PETをアルカリ加水分解し,テレフタル酸とエチレングリコールを確認
 (2) PETの分子量を測定し,ポリエチレンテレフタレートが高分子化合物であることを確認

3 研究の内容
 (1) 5mm角のペットボトルをメタノールやエタノールでアルカリ加水分解するためには,約65℃で2時間以上反応させることが必要である。これでは,通常50分授業の中で行われる生徒実験として導入することができないので,反応時間を短縮するために,PET片の大きさ,PET片や溶媒の種類を変え,反応効率のよい条件を探る。
 (2) PETは高分子化合物であるため,その分子量を測定するため,化学実験事典に記載された高分子溶液の粘度測定から分子量を推定する方法を取り入れることとした。この方法は,PET溶液の極限粘度〔η〕と分子量Mとの間に〔η〕=kMaの関係が成立することから,極限粘度を実験によって求め,計算によって高分子化合物の平均分子量を求めるものである。ここで,kとaはその溶質と溶媒で決まる定数であり,飽和ポリエステル樹脂ハンドブックに記載された条件で実験することで,これらの値を知ることができる。

4 研究のまとめと今後の課題
 今回,PETを使った実験教材について検討した。特にペットボトルの使用が急増し,その処理が大きな社会問題となっている。ゴミとして処理するのではなく,これを再利用するため,さまざまな研究が行われている。ところが,ペットボトルを扱った実験は教科書には記載されていない。生徒の環境意識を高め,ペットボトルの回収率を高めるためにも,探究活動において「PETのアルカリ加水分解実験」を,課題研究で「PETの分子量測定実験」を取り扱うとよいと考える。

おわりに
 新実験化学講座に記載された方法で,高等学校の実験室にある機材を用いて実験できないか試してみた。この方法は,ジメチルテレフタレートとエチレングリコールからビスヒドロキシエチルテレフタレートを合成し,その後重合反応でポリエチレンテレフタレートを合成するものである。しかし,真空度を100Pa以下にすることや高温(275℃)を長時間安定に保つこと等,様々な問題があり,得られた物質はPETとはいえないものであった。「PETの合成実験」も環境意識を高める教材として適切であり,さらに研究を進めていきたいと考えている。