愛知県総合教育センター研究紀要 第93集

 塩分濃度測定法についての比較検討
      ―イオンセンサー測定法,モール法,反応速度測定法を用いて―

はじめに
 平成15年度から高等学校で実施されている新しい学習指導要領の理科では,自然と人間,物質と人間生活との関連などについて理解を深め,生徒の興味や関心を高めることが今まで以上に求められている。化学分野では,特に化学Uの科目の中で「生活と物質」の大項目が新たに設けられ,その中で「食品」の単元も設けられた。
 本研究では,身近な食品に含まれる塩分濃度を求める実験教材の検討を試みた。この実験を行うことにより身近な製品の成分物質を化学物質として認識させたり,食品中の塩分以外の成分物質にも興味をもたせることができると考える。

1 研究の目的
 塩分濃度を測定する方法として,イオンセンサーによる測定を実施した。イオンセンサーについては液膜型のものを作製し,これを実際に用いて測定実験を行った。食品の試料としては各種醤油,ソース,インスタントみそ汁を用いた。今回作製したイオンセンサーはナトリウムイオン選択性のものであるため,塩化物イオン側からの測定法と比較した。従来より行われている手軽で方法の確立されたモール法,最近林により報告された反応速度による測定法を用い,測定精度と実験教材としての有効性,廃液処理の観点から比較検討をした。

2 研究の方法
 (1) 液膜型イオンセンサーを作製し、これを用いて食品中の塩分濃度を測定する。
 (2) 測定結果の解析方法を検討する。
 (3) モール法の結果と比較する。
 (4) 反応速度測定法の結果と比較する。

3 研究の内容
 (1) 作製したナトリウムイオンセンサーは,誤差率1.6%でほぼネルンスト応答をした。これを用いて食品中の塩分濃度を測定した結果,すべての場合において成分表示より値は低めに出た。
 (2) この実験は結果を処理するのに煩雑な計算が必要であるため,検量線を作成する際,初めから%濃度で調整したNaCl水溶液を用い,%濃度の数値をそのまま使った曲線グラフとした。イオン強度を合わせる操作も省いた。結果はモル濃度から読み取った値とほぼ変わらず,1〜2時間の授業展開で行うには手軽な教材となった。廃液処理の点からいっても有害な溶液は使用していないため優れている。
 (3) モール法での測定結果は誤差率3%以内で成分表示に近い値となった。しかし廃液処理の点からみれば,使用する溶液が銀やクロムの金属を含むため環境問題を考慮すると好ましくない。
 (4) 反応速度測定法での結果はモール法に比べて誤差が大きく,イオンセンサーの実験結果と同様成分表示より値は低めに出た。廃液処理の点では,CTA溶液が高濃度の硫酸水溶液となっているため扱いにくい。ただしこの実験は色の変化が劇的であり,生徒の興味や関心を引くと思われる。

4 研究のまとめと今後の課題
 イオンセンサーによる測定実験は,モール法に比べて誤差率が大きく成分表示より値は低めに出る。しかし反応速度測定法と比較すると同じような値が出ており,今後は市販の塩分濃度計による測定結果や、発光分光分析法などのナトリウムイオン側からの他の測定結果と比較検討する必要がある。
 廃液処理の観点から見れば,イオンセンサーによる測定実験は圧倒的に他に勝っており,今後さらに条件検討(イオン強度,pH条件,検量線の改善など)を行い教材化を試みたい。

おわりに

 今回の研究では今後さらに検討を行わなくてはならない課題を多く残した。しかしながら,現在学校での理科実験において廃液処理などで環境に配慮することが強く求められていることを考えれば,イオンセンサーによる実験などは積極的に取り入れていくことが望ましいと思われる。なお,塩化物イオンのイオノフォアも報告されており,これを用いたイオンセンサーを作製することも興味深い。