愛知県総合教育センター研究紀要 第93集

 高等学校数学科における評価規準, 評価方法等の在り方に関する研究
                        − 観点別評価を活かすための実践から−

はじめに
 中学校における学習成績の評価方法が,「集団に準拠した評価」(いわゆる相対評価)から「目標に準拠した評価」(いわゆる絶対評価)へと変更されたのを契機として,高等学校においても,「観点別評価」や「指導と評価の一体化」が重要な課題となっている。四観点のバランスを意識した授業展開や評価を行うことで,認知面とともに情意面を育てようとするものであるが,各学校においてその趣旨を生かしきることができるかという懸念がある。

1 研究の目的
 本研究は,教員が観点別評価の意義を正しく理解した上で,評価計画,授業,評定への総括という一連の実践を試みることで,どんな効用と今後の課題が浮かび上がるのかについて究明しようとしたものである。

2 観点別評価実施の背景にあるもの(授業改善の視点で問い直す)
 生徒の学力・学習意欲等に関する状況は,近年大きく変化しているが,一方で情報社会にふさわしい教育観として,現在の潮流をなしているのは,発達的教育観であり,それに伴う評価観の変更が求められている。

3 実践事例
【実践事例1】評価規準表の生徒への公表と評価基準表の作成
 数学Uの「微分と積分の考え」について,「評価規準の具体例」を作成して生徒に公表した。さらに,授業ごとの評価計画・評価基準を作成し,授業中の観察等を通じて評価することの効果と問題点を探ろうとした。
 実践の結果,授業に対する生徒の取組が良好になり,教員にとっては,数学に対する「関心・意欲・態度」や「数学的な見方や考え方」を評価するための教材を考える契機とすることができた。

【実践事例2】観点別評価を取り入れた評価方法による評定への総括
 高等学校では,作業や実験などを頻繁に取り入れていては,教科内容のすべてを指導しきれないという事情がある。そこで,試行段階として,「関心・意欲・態度」「数学的な見方や考え方」といった情意的な側面は授業内で,「表現・処理」「知識・理解」という認知的な側面は考査結果によって評価し,それらを総括した評定付けを何種類かの方法で試みて比較した。

【実践事例3】生徒による自己評価活用の可能性
 次の3種類の実践から,生徒による自己評価の学習意欲に与える効果及び運用上の留意点を探り,様々な面から考える場合の材料となるようにした。
 @ 授業時の自己評価と定期考査結果との関連性の調査
 A 学習完了時の自己評価と定期考査結果との関連性の調査
 B 教材と結び付いた自己評価表のポートフォリオ的な利用
 生徒による自己評価は,「学習の振り返りの際の手掛かり」「形成的評価,情意面の評価の参考資料」という二つの機能があり,指導資料として一定の範囲で活用できることが分かった。
 自己評価力は「生きる力」ともかかわる重要な資質であり,その意味で自己評価の場面を設定し,振り返らせることの意義は大きい。

4 今後の課題
 新学習指導要領の趣旨に沿って,数学的活動(実習,操作,実験,観察などの「外的活動」と抽象化,類推,帰納,演繹などの「内的活動」とがある)を取り入れた授業展開を工夫し,その中で授業場面に応じて考案された観点別評価問題や評価課題により評価し,個に応じた指導へと結び付けることが必要である。
 また,観点のバランスを意識した定期考査問題の作成に取り組まねばならない。