愛知県総合教育センター研究紀要 第93集

 先端技術等を導入した実験・実習の在り方に関する研究
                 −教科「農業」を中心として−

はじめに
 職業教育では,生涯学習社会の視点に立ち,生徒に将来のスペシャリストとして必要な専門性の基礎・基本及び産業界で必要とされるより高度な知識・技術を身に付けさせ,更に技術革新の進展に主体的に対応できる生徒の育成を目指している。しかし,新しい技術等に対応した実験・実習の実際的・体験的な学習は十分な状況とは言えない。とりわけ,農業教育においては,バイオテクノロジーの急速な発展,地球環境問題や農山村滞在型余暇活動の活発化など,新たな教育内容への対応に留意した教育内容の改善が求められている。

1 研究の目的
 農業教育の充実に視点を据え,農業分野における様々な先端的な技術(バイオテクノロジー,地球環境保全技術等)を導入した実験・実習の在り方について,幾つかの実践を通して明らかにする。

2 研究の方法
 (1) 研究協力委員及び所員による教育資料の収集及び実験・実習への教材化
  ア 実験・実習の在り方に関する資料の収集
  イ バイオテクノロジーや地球環境保全技術等に関する資料の収集及び教材化
 (2) 研究の授業実践
 教材化を図ったもののうち,「シランの簡易無菌培養法」,「水耕栽培とテラピア飼育によるアクアポニックス」,「エコエネルギー(燃料電池)の仕組み」について,研究協力委員の所属校にて授業実践するとともに,普通科高校や養護学校の高等部においても実践可能な実験・実習について検討した。

3 研究の内容
 (1) 実験・実習の在り方について
 学習指導要領等の資料から農業教育における実験・実習の重要性及びこれからの農業教育の方向性について考察した。
 (2) バイオテクノロジーに関する研究の実践
 特殊な装置を用いることなく,次亜塩素酸ナトリウムの利用により手軽に植物組織培養の実験が行える「シランの簡易無菌培養法」について実践した。
 (3) 地球環境保全技術に関する研究の実践
 地球環境に配慮しながら食糧生産技術の可能性を追究した「水耕栽培とテラピア飼育によるアクアポニックス」について実践した。アクアポニックスとは,アクアカルチャー(水産養殖)とハイドロポニックス(水耕栽培)とを組み合わせた造語である。魚(テラピア)飼育の水を循環利用(作物が排泄物を肥料として利用)して植物栽培を行う循環型のリサイクル農業に関する実践である。
 また,クリーンな次世代エネルギーとして研究開発されている燃料電池の理論・構造を鉛筆の芯を電極とした簡単な燃料電池装置や市販の燃料電池模型を用いて理解させる実験も実践した。

4 研究のまとめと今後の課題
 (1) 農業教育における実験・実習の重要性及びこれからの農業教育の方向性について確認することができた。
 (2) 農業分野における様々な先端技術等を導入した実験・実習を展開することができた。
 (3) 理論と同時に体験(実験・実習)を通して学習させることによって,多くの生徒は意欲的に学習に取り組むようになった。

おわりに
 この研究成果が,各校における「実験・実習の在り方」の一助になれば幸いである。 なお,今回教材化を図った実験のマニュアルを資料として集録した。農業教育だけでなく理科教育等においても活用されることを願っている。