愛知県総合教育センター研究紀要 第93集

 教育相談における軽度発達障害児の理解と支援に関する研究

はじめに
 学習障害児,注意欠陥/多動性障害児,高機能自閉症児やその周辺児(以下,軽度発達障害児)は,「わがままな子」「親のしつけの悪い子」などという誤解や偏見を受ける場合もあり,適切な教育的対応が十分に行われているとは言い難いところがある。このような児童生徒に対して,周りの者がその障害を理解し,適切な支援を行うことが最も大切である。そのためには,対象児やその保護者・担任への教育相談や対象児・担任への校内支援体制をどのように進めていくかを整備していく必要がある。

1 研究の目的
 本研究では,軽度発達障害児に関する基礎研究及び,このような児童生徒に対しての抽出マニュアルの作成や学習・生活支援プログラム(個別の指導・支援計画)などの効果的な指導方法・内容の在り方を追究する。また,研究協力校との連携を図り,教職員,保護者への軽度発達障害に対する啓発活動の在り方とともに,学校全体で対応を検討するため,校内支援委員会の取組方法の研究を行い,学校現場で実行可能な構築モデルを提示することにより,学校組織の機能的な活動の充実を図ることをねらいとする。

2 研究の方法
 (1) 軽度発達障害の基礎研究と研究協力校の教職員,保護者への啓発を踏まえ,特別な支援を必要とする児童を抽出し,その特性の理解を推進する。
 (2) 校内支援委員会で指導実践や教育相談等を検証しながら,望ましい支援の方法を検討する。 
 (3) 学校と総合教育センターや専門機関等との連携の在り方を検討して,機能的な校内支援体制のモデルを提示する中で,その課題と今後の方向性を整理する。

3 研究の内容
 (1) 軽度発達障害児の実態
  ア 当センターにおける特殊教育相談の現状
  イ 特殊教育から特別支援教育へ
 (2) 軽度発達障害の理解
  ア 学習障害(LD)  イ 注意欠陥/多動性障害(ADHD)
  ウ 高機能自閉症
 (3) 軽度発達障害児の支援と校内体制
  ア 軽度発達障害の理解とスクリーニング
  イ 校内支援のための委員会の設置と運営
  ウ 総合教育センターや専門家,専門機関との連携
  エ 保護者,地域への理解と啓発 
 (4) 実践事例1 豊田市内の小学校
 (5) 実践事例2 小牧市内の小学校
 (6) 実践事例のまとめ

4 研究のまとめと今後の課題
 学校で生活や学習に不適応を示す児童生徒やその指導・養育に悩む担任・保護者を支援していく上で,教育相談は重要な役割を果たしている。本研究ではこうした教育相談を通して,軽度発達障害児を理解し,どのように支援していくかをテーマに協力校と研究を進めてきた。その成果は次の3点である。
 (1) 児童生徒の困難性を軽度発達障害という観点で洗い直すことができた。
 (2) 気になる児童生徒が,校内支援委員会等により,特別な教育的支援を施す対象へと変容していった。
 (3) 専門家等との連携の重要性や,その際に教育相談の果たす役割が明確になった。
 今後は,次のような課題の基に,更に充実した支援体制づくりを追究したい。
 (1) 軽度発達障害児の教育的支援をコーディネートできる人材の育成を図る。
 (2) 教職員,保護者の教育相談も含め,専門家や専門機関との連携をより充実する。
 (3) 巡回指導や専門委員会の設置に向け啓発活動に努める。