愛知県総合教育センター研究紀要 第95集
豊かな心の育成を目指す指導の在り方に関する研究
はじめに
子供たちを取り巻く社会環境や経済の急速な変化や進展は,物質的な豊かさの中での生活と相まって,価値観の多様化の一因となっている。そのため子供たちは人間としての在り方や生き方の確固たるよりどころを見いだせないとともに,道徳意識や規範意識の希薄化が懸念されている。一方,子供を育てるべき大人社会のモラルの低下も指摘されており,これらは子供たちの考え方や行動等,心の在り方に大きな影響を及ぼしている。このような状況の下,「心の教育」の充実を図っていくためには詳細な実態調査を実施し,問題点を明らかにする必要がある。
1 研究の目的
本研究では,幼児,児童,生徒の望ましい「心の教育」の充実に視点を据え,特に規範意識や思いやり,しつけといった点から,豊かな人間性をはぐくむ教育の在り方について実態調査を実施して,学校,家庭,地域における具体的な問題点を把握する。また,実態調査の分析結果を踏まえて,幼稚園から高等学校までを通した校種を超えた連携の在り方についても研究する。
2 研究の方法
愛知県における小学校,中学校及び高等学校の児童生徒の体験や行動の実態,規範等に関する意識,また,幼稚園,小学校,中学校,高等学校の保護者及び教員の意識を調査する。
3 研究の内容
(1) | 調査項目の検討 | ||
子供たちの思いやりや規範意識の醸成に関する仮説を設定し,その仮説に基づいた調査項目を作成した。児童生徒用(計40問)は,基礎項目の他,体験,意識,具体的な規範意識,行動について,保護者用(計30問),教員用(計24問)は,基礎項目,子供について,保護者(教員)自身について,子供の将来像,意識低下の原因について調査項目を設定した。 | |||
(2) | 実態調査の実施 | ||
平成17年6月下旬から7月上旬に,県内の児童生徒,16,875人(小学校46校,中学校28校,高等学校24校),保護者,14,317人,教員,2,197人を対象に実施した。 | |||
(3) | 調査結果の分析と考察 | ||
児童生徒用,保護者用,教員用それぞれの調査結果は,単純集計を中心にして,関連性のある項目間のクロス集計や比率間の差の検定等を行い,調査結果の中から特徴的な傾向がみられるものについて分析とその考察を掲載した。 |
4 研究のまとめと今後の課題
今回の実態調査から,幼児,児童,生徒の実態及び保護者,教員の意識を把握することができた。実践研究については次年度の大きな課題ではあるが,調査項目を設定する際に仮定した「子供たちの思いやりや規範意識の醸成には,子供たちの自己肯定感,自己存在感,自己有用感が関係し,また,これらの意識の育成には子供たちの過去の体験(社会,自然,生活)が深くかかわっている」ということが,分析から読み取ることができる。また,「コミュニケーション」,「いのち」,「豊かな体験」,「自己肯定(存在・有用)感」,「規範意識」,「道徳性(道徳教育)」,「モラル低下」,「小学6年生」等といったキーワードを挙げるとともに,次のような研究の方向性を考える必要がある。
○ | 確固とした道徳性の育成 | ||
○ | 生命の尊さや生きることの素晴らしさを実感させる指導の充実 | ||
○ | 体験活動の充実 | ||
○ | 心の教育の充実に向けた教育システムの構築 |
おわりに
次年度は,実態調査の分析から明らかとなってきた課題等を中心に,各学校で実践可能な具体的な指導にかかわる研究を推進していく必要がある。