愛知県総合教育センター研究紀要 第96集

 豊かな心の育成を目指す指導の在り方に関する研究

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1 はじめに

 現代の子供たちは,社会の急速な進展や変化等に直面して,人間としての在り方生き方の確固たるよりどころを見いだせないまま,道徳意識や規範意識の希薄化が進行している。それに対して社会は,少年法の改正や小中学生に対する出席停止制度の改善のように,自分の行動に対する責任を子供たちに追及する方向へと動いている。ただ,子供たちの健全育成に向けた課題は多岐にわたっており,対応の在り方を考える必要がある。

2 研究の目的

 本研究では,子供たちの望ましい「心の教育」の充実のため,規範意識や思いやりの基礎を形成するという視点から,豊かな心の育成を目指す指導の在り方について研究協力校(園)とともに実践的な研究を推進し,「心の教育」の在り方についての一方途を提案する。

3 研究の方法

 愛知県における小学校,中学校及び高等学校の児童生徒の体験や行動,規範意識とともに,幼稚園を含む保護者及び教員の意識を調査する。
 また,実態調査の分析結果を踏まえ,幼稚園から高等学校までの研究協力校によって,校種を超えた連携の視点も取り入れて実践研究を行う。

4 研究の内容

(1) 実態調査の実施と結果の分析
 平成17年に子供たちの思いやりや規範意識の醸成に関する調査を,児童生徒用(計40問),保護者用(計30問),教員用(計24問)の3種類で約3万人を対象に実施した。その結果をクロス集計や因子分析によって分析・考察した。
 調査結果として,「子供たちの思いやりや規範意識の醸成には,子供たちの自己肯定感,自己存在感,自己有用感が関係し,また,これらの意識の育成には子供たちの過去の体験が深くかかわっている」ことが分かった。
 このことを踏まえて協議し,次の4点が課題として浮き彫りにされた。
  ○確固とした道徳性の育成
  ○生命の尊さや生きることの素晴らしさを実感させる指導の充実
  ○体験活動の充実
  ○心の教育の充実に向けた教育システムの構築
(2) 基礎理論の文献研究
 学校における様々な指導の参考となるように,道徳教育における多くの実践研究の基礎をなすコールバーグの「発達段階の理論」とともに,指導過程で生ずる子供と教員の意識の差を解釈する「社会的知識の領域に関する理論」の知見を整理した。
(3) 実践研究
 学校における実践研究は,以下の二つに焦点化して行った。
幼稚園と中学校,小学校と高等学校など年齢の離れた交流体験の効用
 幼稚園と中学校では,幼稚園児を中学生が世話をする活動を2回(夏休みと秋)実施した。また,小学校と高等学校では,共同で清掃活動を行った。
 アンケートの結果,このような体験が自己有用感を高めていることが分かった。
道徳的実践力の育成に向けて,「言葉」と「体験」を意識した取組の効用
 以下の取組を行い,いずれも一定の効果を上げることが確認された。
  ○幼稚園:園児の体験に対して,教員が言葉を添えるよう意識する取組
  ○小学校:道徳の授業でVLFプログラムを実践する取組
  ○中学校:人間関係の形成や命の大切さ,心に響く言葉を含むプロジェクト
  ○高等学校:生徒もかかわって,「美徳の言葉」を校内放送で流す取組

5 今後の課題 

 心の教育における学校の役割は大きいが,家庭や地域を巻き込んだシステムへと発展させることが重要であり,理論と実践の積み上げが必要である。