愛知県総合教育センター研究紀要 第96集
        
キャリア教育推進に関する調査研究
(中間報告)

全文(PDF 641KB,61ページ)


1 はじめに
 児童生徒の勤労観,職業観の形成をめぐって様々な論議がなされる今日,フリーターやニートに象徴される若者の精神的,社会的自立の遅れや就業意識の低下の原因を探り,キャリア教育を通して児童生徒の勤労観,職業観の育成,ひいては児童生徒の「生きる力」の育成を図ることが学校教育に求められている。
 キャリア教育は,各学校で取り組むべき新たな活動を提案しようとするものではない。むしろ各学校で既に実施している教育活動全体をキャリア教育の観点で見直し,それぞれの教育活動がもつ意味を確認し,活動を有機的に関連付けて,より効果的なものにしていくことが大切である。
 本研究は,平成17年度より,小・中・高等学校におけるキャリア教育の在り方に関する研究に取り組み,今日的課題であるキャリア教育について,導入の経緯と意義,先進的な取組事例の研究及び県内の小・中・高等学校の教員のキャリア教育に関する意識調査等に取り組んできた。これらの調査研究を基に,キャリア教育の在り方と推進のための方策を提案し,各学校での実践上の参考となるものにしたいと考えている。


2 研究の目的
 本研究は,キャリア教育の意義,児童生徒の実態に即したキャリア教育学習プログラムの具体例の開発及び授業実践を通して,キャリア教育の在り方について検証し,その研究成果を積極的に発信することにより,キャリア教育についての教員の意識改革と資質の向上を図るとともに,各学校における取組の振興・充実を図ることをねらいとしている。

3 研究の方法
 (1) キャリア教育にかかわる諸答申や通知,「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」(平成16年1月文部科学省)などの資料及び文献を参考にして,小・中・高等学校におけるキャリア教育の在り方を研究する。

 (2) 小・中・高等学校におけるキャリア教育の実施状況及びキャリア教育に対する教員の意識を把握し,小・中・高等学校の連携に視点を置いた学習プログラムを作成する。

 (3) 作成した学習プログラムを基に,研究協力委員が所属する学校で授業実践を行い,指導と評価の在り方について検証する。

4 研究の内容
  (1) キャリア教育の推進に向けて
 「キャリア教育」の文言が,文部科学行政関連の審議会報告等で初めて登場したのは,「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年12月中央教育審議会答申)であり,小学校段階から発達段階に応じてキャリア教育を実施する必要があると提言された。この答申に続く「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について(調査研究報告書)」(平成14年11月国立教育政策研究所生徒指導研究センター)及び「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」(平成16年1月文部科学省)におけるキャリア教育推進に関する提言を整理し,キャリア教育導入の経緯,「勤労観,職業観」の定義,キャリア教育導入の意義等について,「T キャリア教育の推進に向けて」 (p.4からp.6)にまとめた。

  (2) キャリア教育に関するアンケート
 愛知県における市町村立小学校,中学校及び県立高等学校の教員のキャリア教育に対する意識と各学校における取組の現状を調査して,今後の「キャリア教育推進に関する調査研究」の基礎的な資料を作成する目的でアンケートを実施した。アンケートの実施概要及び結果概要については,
「U キャリア教育に関するアンケート」 (p.7からp.19)にまとめた。 (アンケート用紙は,巻末資料1 (p.56からp.60)に掲載)

  (3) 学習プログラム枠の開発
 「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について(調査研究報告書)」(平成14年11月国立教育政策研究所生徒指導研究センター)の「職業観・勤労観を育むための学習プログラムの枠組み(例)」において,小・中・高等学校の各段階で育成すべき具体的な能力・態度が示された。本研究では,これらの能力・態度の育成を目指す学習プログラムの開発に当たり,既に各学校で実施している教育活動全体を,キャリア教育の観点で見直し,活動全体を有機的に関連付けることを意識して取り組んだ。
 「職業観・勤労観を育むための学習プログラムの枠組み」及び小・中・高等学校での具体的な教育活動例を含む学習プログラムについて,「V 学習プログラム枠の開発」 (p.20からp.31)にまとめた。

 (4) キャリア教育実践事例
 小・中・高等学校におけるキャリア教育実践を,各活動において「児童・生徒に獲得させたい職業的発達にかかわる諸能力」を明確にしながらまとめた。
  ア
 【実践事例1】小学校における取組 (p.32からp.37) 
   「発掘!西尾の町職人−見付けよう!キラリ輝く心と技−」 西尾市立西尾小学校

  イ 
【実践事例2】中学校における取組 (p.38からp.46)
   「一人一人の職業に対する興味・関心を重視した職場体験学習」 東海市立横須賀中学校

  ウ 
【実践事例3】高等学校における取組 (p.47からp.55)
   「キャリア発達を支援する組織的な職場体験」 県立津島北高等学校

5 研究のまとめと今後の課題
 職業観,勤労観は,特定の資質・能力を高めることによってではなく,一人一人の全人的な発達によって形成されるものである。同時に,職業観,勤労観の育成は,全人的な発達を促す重要な取組である。このことをすべての教員が認識し,学校のすべての教育活動を通してキャリア教育が行われるようにすることが大切である。そのためには,現在実施されている教育活動全体をキャリア教育の観点から見直し,その教育的価値を明確にしながら,各活動相互の有機的な組立てを構築し,より効果的な組織づくりを行うことが急務であると考える。

6 おわりに
 次年度は,授業実践を通して,指導と評価の在り方について検証するとともに,これまでの研究で明らかになってきた課題として,「小・中・高の連携を図るための具体的な方策」,「高等学校普通科におけるキャリア教育の在り方」等についての研究を進め,各学校での実践上の参考となるものにしたいと考えている。

巻末資料1 アンケート用紙 (p.56からp.60)

巻末資料2 参考資料 (p.61)