愛知県総合教育センター研究紀要 第97集

 心の発達の支援に関する研究(最終報告)

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1 はじめに

  教育相談研究室では,平成12年度より予防・開発的教育相談の研究を継続してきた。第T期 (平成12〜14年度)では,構成的グループエンカウンターを活用した活動により集団内の結び付きが強くなり,帰属意識が高まることが確認された。第U期 (平成15〜16年度)では,児童生徒の所属欲求や承認欲求が満たされると主体的に取り組めるようになることや,学校行事に絡めてグループ・アプローチ(以下G・Aとする)を行うことが,児童生徒の「心の絆づくり」に効果があることが分かった。第V期の本研究では,心の成長過程における関係性の発達や発達課題の達成をより効果的に支援するG・Aを実践し,その有効性を検証することにした。

2 研究の目的

  児童生徒が健やかな自己肯定感を所持し,確かな他者理解の上に,豊かな人間関係を築いていく力を自ら開発することを支援し,問題行動や不適応行動を予防する。さらに,集団や社会の中で自分を生かし,他を尊重しながらよりよく生きていく力を児童生徒自らが開発することを援助する。この目的のため,それぞれの児童生徒の発達段階に応じたG・Aを実践し,より効果的な支援方法を探求する。

3 研究の方法

 研究協力委員が,児童生徒の実態を踏まえ,発達段階を考慮し,G・Aを実践する。各委員は,担任だけでなく,校内におけるそれぞれの立場から子供たちとかかわり,実践内容や方法,時期等をプログラム化して実践し,その効果をそれぞれの課題に関係する尺度を用いて測定する。

4 研究の内容

(1) 「発達」について
 本研究では,「発達」の概念を,身体的・生理的変化あるいは量的な変化を「成長」,心理的・精神的変化を「発達」と定義し,共有した。「発達」には一定の原理が存在し,その過程には様々な段階があることと,それぞれの段階には人が成長していく上で達成されるべき様々な課題(発達課題)があることについて共通理解をし,研究を行った。
(2) 実践事例
【実践1】 家庭・地域・仲間と共に高め合う「のびっ子」の育成
−人と豊かにかかわる人間関係づくりの実践を通して−
【実践2】 互いを認め合い,居心地のよいクラスづくりを目指して
−1年間を通したグループ・アプローチの実践を通して−
【実践3】 自分を大切にし,相手を尊重する行動がとれる子の育成を目指して
−体・心・命の学習を通して−
【実践4】 夢や目標に向けて,見通しをもって行動できる生徒の育成
−「ドリームマップ」と「目標達成のためのステップ」の活用を通して−
【実践5】 自己成長する生徒の育成
−部活動に「メンタルトレーニング」と「構成的グループエンカウンター」を取り入れて−
【実践6】 進路意識を高め,学校生活に前向きに取り組む生徒の育成
−キャリア教育にグループ・アプローチを活用して−
【実践7】 将来の職業や生き方に対する見通しの獲得を目指した支援
−高等学校の家庭科授業でのグループ・アプローチを通して−

5 研究のまとめと今後の課題 

 本研究では,子供たちの実態を踏まえ,子供たちの発達課題に焦点を当ててG・Aを実践してきた。どの実践でも子供たちに変容が見られ,実践での体験が,発達の促進に有効であることが確かめられた。しかし,同年齢の子供であっても,発達段階や感じ方が異なるため,G・Aの用い方に更に工夫が必要であることも示唆された。今回の実践は,子供たちが抱える発達課題の一部に対しての実践である。今後,他の発達課題に対する支援についての研究を進めていくことが求められる。