授業実践事例
パソコンの自作を通して理解するコンピュータの仕組み
~ソフトウェア分野~
1 はじめに
生徒はこれまでに、コンピュータを構成するハードウェアの概要や役割、機能について学び、コンピュータの自作という実習を通してその知識・技能を身に付けることができた。(ハードウェア分野参照) 今回の単元では、コンピュータに基本ソフトウェア(OS)のインストールや各種設定を行うという実習を通して、OSやネットワークについての理解を深める。
2 単元の目標
・OSのインストールを通じて、OSの機能を理解する。
・ネットワークに関する基本的な操作・設定を行うことを通じて、TCP/IPについての基本を理解する。
3 指導内容
(1)BIOSの理解と設定の変更
(2)Linuxの理解とインストールの実習
(3)ディレクトリ構造の理解と活用
(4)基本的なコマンドの理解と実習
(5)ネットワークの仕組みの理解と設定の変更
(6)OSが必要な理由の検討
▽使用教材(授業プリント)(ハードウェア分野からの継続)
・授業プリント①(21print.docx)「5時限目 BIOS及びLinuxの理解とインストール作業」
・授業プリント②(22print.docx)「6時限目 ディレクトリ構造と基本的なコマンドの理解」
・授業プリント③(23print.docx)「7時限目 ネットワーク設定ファイルの編集とネットワークへの接続」
・事後アンケート(02questionnarie.docx)
4 授業の流れ
▽1時限目(5時限目) BIOS及びLinuxの理解とインストール作業
学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 | |
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導入 (10分) |
<復習>前時までの学習内容の振り返り ・これまでの講義及び実習内容の確認問題を解き、自己の理解度を確認する。 |
・多くの生徒が理解できていない部分を確認して、後に説明する。 |
展開
(35分) |
<講義>BIOSの理解 ・BIOSの概要、役割、起動方法を理解する。 授業プリント①(21print.docx) |
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<実習>BIOSの起動と設定 ・USBメモリ端子を接触させて、コンピュータの電源を入れる。 ・F2キーを押しBIOS画面を立ち上げる。 ・ブートデバイスが光学ドライブになるように設定を変更する。 |
・USBメモリ端子と接触させるピンが正しいか確認させる。 |
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<講義>Linuxの理解 ・OSと応用ソフトウェアについて理解する。 ・OSの役割と種類を理解する。 ・Linuxの概要を理解する。 |
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<実習>Linuxのインストール ・CD-ROMからLinuxをインストールする。 |
・インストール作業が授業内に終わらない場合は、次の授業前までに完了させるように指示する。 |
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まとめ (5分) |
<まとめ>本時のまとめ ・本時で学習した内容について振り返り、理解を深める。 |
▽2時限目(6時限目) ディレクトリ構造と基本的なコマンドの理解
学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 | |
---|---|---|
導入 (5分) |
<導入>前回の授業の振り返り ・前回の授業での学習内容を振り返るとともに、本時の授業の流れを把握する。 授業プリント②(22print.docx) |
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展開 (40分) |
<講義>ディレクトリ構造と基本的な操作についての理解 ・Linuxのディレクトリ構造について理解する。 ・ルートディレクトリ、カレントディレクトリ、絶対パス、相対パスについて理解する。 ・ディレクトリの操作についての基本を理解する。 |
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<実習>ディレクトリに関する操作の実習 ・指定したファイルの絶対パスを相対パスで記述する。 ・ルートディレクトリ直下にどのようなディレクトリやファイルがあるか確認する。 ・指定したディレクトリに移動する。 |
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<実習>基本的なコマンドと操作の理解 ・Terminalを起動する。 ・pwdやls、catなど、基本的なコマンド操作を行い動作を確認する。 |
・cpやrmなど視覚的に変化が分かるコマンドについては、Terminalウィンドウを並べて表示させ、ファイルの変化を視覚的に確認させる。 ・各コマンドを入力するたびpwdとlsコマンドを入力させ、カレントディレクトリとディレクトリ内のファイルを確認させる。 |
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まとめ (5分) |
<まとめ>本時のまとめ ・本時で学習した内容について振り返り、理解を深める。 |
▽3時限目(7時限目) ネットワーク設定ファイルの編集とネットワークへの接続
学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 | |
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導入 (5分) |
<導入>前回の授業の振り返り ・前回の授業での学習内容を振り返るとともに、本時の授業の流れを把握する。 授業プリント③(23print.docx) |
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展開 (30分) |
<講義>ネットワークの基本と設定方法 ・ネットワークの基本について振り返る。 ・ifcfg-eth0やresolv.confなどのネットワーク設定ファイルの内容について理解する。 ・プロキシサーバの役割や機能について理解する。 ・テキストエディタ「vi」の簡単な操作方法について理解する。 |
・テキストエディタ「vi」については、詳しい解説を行わず、コマンドモードと入力モードの違いと切り替え方法、十字キーとBS、保存方法について理解させる。 |
<実習>ネットワーク設定ファイルの編集 ・設定ファイルをviで開き、ネットワークに関する項目を編集する。 ・サービスを再起動させ、設定ファイルの反映を行う。 ・コマンド(ifconfigやping)でネットワークの接続状況を確認する。 |
・うまくネットワークに接続できていない場合は、設定ファイルを確認し、アドバイスをする。 |
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<実習>プロキシの設定 ・ブラウザ(Firefox)を起動して、プロキシサーバのIPアドレスやポート番号などプロキシサーバに関する設定をする。接続状況を確認する。 |
・一般のネットワーク環境からインターネットへ接続する際、プロキシの設定が必ずしも必要であるとは限らないことを伝える。 |
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まとめ (15分) |
<まとめ>単元のまとめ ・OSやネットワークの設定の手順を振り返る。 ・役割や機能の面から、OSが必要な理由を考え、授業プリント③に記入する。 |
・生徒全員に問いかけ、生徒から答えを引き出すようにする。 |
5 評価規準
評価規準
関心・意欲・態度 | 思考・判断・表現 | 技能 | 知識・理解 | |
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単元の 評価規準 |
・OSやネットワークについて興味・関心をもち、これらを活用しようとしている。 | ・OSの必要性を考えることができる。 | ・コンピュータやネットワークを適切に設定することができる。 | ・OSやネットワークについての基本を理解している。 |
学習活動に 即した 評価規準 |
①コマンド操作に関心を持ち、意欲的に実習に取り組もうとしている。 | ①OSの役割や機能を踏まえ、OSが必要な理由を考えることができる。 | ①コンピュータにOSを適切にインストールすることができる。 ②コンピュータのネットワークへの接続について、コマンドを使って適切に設定できる。 |
①OSやネットワークの設定について、役割や機能、設定方法を理解している。 |
指導と評価の計画
時間 | 学習内容及び活動 (指導上の留意点) |
観点別評価内容 | 評価規準との関連 | 評価の方法 | |||||
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関心 ・ 意欲 ・ 態度 |
思考 ・ 判断 ・ 表現 |
技能 | 知識 ・ 理解 |
発表内容 | 提出物の内容 | 授業態度 | |||
1時限目 (5時限目) |
◎ BIOSやOSについての理解とLinuxのインストール | ||||||||
・BIOSやOSの理解 | ・BIOSやOSの役割や機能、設定方法を理解している。 | ① | ○ | ||||||
・BIOSの設定とLinuxのインストール | ・BIOSの設定やLinuxのインストールができる。 | ① | ○ | ○ | |||||
2時限目 (6時限目) |
◎ ディレクトリ構造と基本的なコマンド操作の理解、活用 | ||||||||
・ディレクトリ構造についての理解 | ・ディレクトリ構造や基本的な操作方法について理解している。 | ① | ○ | ||||||
・コマンドによる操作 | ・適切なコマンドを使い、ファイルやディレクトリの操作を行うことができる。 ・各種のコマンドを積極的に試している。 |
① | ① | ○ | ○ | ||||
3時限目 (7時限目) |
◎ ネットワークの設定とインターネットへの接続 | ||||||||
・ネットワークの設定 | ・ネットワークの各種設定ファイルを編集できる。 | ② | ○ | ||||||
・OSの必要性についての検討 | ・OSの役割や機能を踏まえ、OSが必要な理由を考え、表現することができる。 | ① | ○ |
6 実践結果の考察
前単元「ハードウェア分野」で自作したコンピュータを使用し、BIOSの設定からOSのインストール、ネットワークの設定を行った。また事後アンケートを今回の2つの単元終了後に行い、授業内容についてそれぞれの事項の理解度を自己評価させた。それが下のグラフである。
ほぼすべての項目で「当てはまる」、「やや当てはまる」を合わせると回答の過半数を占める結果となった。
しかし「ネットワークの基本的な設定について理解できた」という質問に対し、「当てはまる(理解できた)」と回答した生徒はなく、理解が浅いという結果になった。その要因として、数多いネットワークの設定項目を50分間だけで速足で説明したことが思い当たる。すべて詳細に説明するのではなく、必要な設定項目だけに絞り時間をかけて説明するべきであった。これは実習全体を通しても同じことが言える。「ソフトウェア分野」の授業時間としては3時間しか設けていなかったため、その中でできるだけ多くの事を教えようとしたために、伝えることが多くなり、生徒の理解が十分でなかったと考えられる。時間を考慮して、内容を精選するべきであった。
7 おわりに
これまで生徒はソフトウェアについて基礎的な部分を学んできたが、講義で話を聞くのが中心で、実機に触れて学ぶ機会はなかった。今回、生徒が自分たち自身でOSをインストールし各種設定や操作を行ったことで、OSやネットワークについて理解が深まり、技能の習得にもつながった。ただ、自作コンピュータを実習で利用したため、数名で一台のコンピュータを利用することになった。一人一台の実習環境であれば、より理解が深まると考えられる。今後は、コンピュータ室のコンピュータを使うなど、生徒にとってより効果的に学習できるような環境を整えるよう検討することが必要である。