1 DNAの抽出(動物の組織の場合)
練り製品や動物の組織の場合は,乳鉢に,抽出バッファー(100mmol/L NaCl,1%SDSを含む100mmol/L Tris-HCl(pH9.0))5mL,石英砂(少量)を入れてすり潰す。固形状の場合は,抽出バッファーをもう5mL程度追加する。ペースト状になったら,30分間室温で放置する。 |
2 DNAの抽出(生肉の場合)
生肉や動物の組織の場合は,その他のバッファーを用いて,すり潰した後,約20mLビーカー(200mL)に入れ,ブンゼンバーナーの弱火で30分間煮沸する。水分が蒸発するので焦がさないように時々水(20mL程度まで)を加える。コトコトと弱火で煮る感じで,PCR用のテンプレートをとることができる。 |
3 DNAの抽出(キットを用いる場合)
高価ではあるが,非常に簡単にPCR用テンプレートDNAを得ることができる。 頬粘膜細胞を採取して,DNAを抽出する例を以下に示す。 |
(1) | 口の中を,水でゆすぎ,洗う。 | |
(2) | 専用のブラシで,両頬の内側をそれぞれ20回ほどこする。 | |
(3) | (2)のブラシを,専用のDNA抽出液内で最低5回以上撹拌する。 | |
(4) | (3)の液をを,65℃で10分間湯浴し,撹拌した後,さらに,98℃で1分湯浴する。再度撹拌した後,98℃で2分湯浴し,最後に再び撹拌する。 |
4 DNAの精製
抽出を行った後の操作は,多くの場合,同じ操作で精製することができる。 |
(1) | 駒込ピペットを用いてチューブ3本に抽出物のペーストまたは上清を各500μL入れる。以後,チューブのフタには,必ずマジックでサンプル番号を入れる。 | |
(2) | 13,000回転で3分間遠心分離を行う。 | |
(3) | 各々の上清の中層(一番澄んだ部分から)を700μL(チューブに半分くらい)を回収する。 | |
(4) | phenol/chloroform/isoamyl-alcohol(25:24:1)を500μL加え,3分間混和する。フェノールは,変性作用が強く,健康を害するので,ビニール手袋をして作業する。皮膚に付着したら,速やかに石けんでよく洗う。 | |
※ フェノールは,昔は病院の消毒薬としても使われたが,人体に対する毒性から使われななった。皮膚につくと壊死を起こすので注意する。 | ||
(5) | 13,000回転で3分間遠心分離を行う。 | |
(6) | 側面からよく観察する。液を混合しないように丁寧にフタを開け,新しいチューブに上層の液をできるだけたくさん回収する。この段階でまだ,水の層にフェノールが残留腐蝕性があるので注意する。 | |
(7) | chloroformを500μL加え,3分間混和する。クロロホルムは,細胞膜透過性が強く,健康を害するので,ビニール手袋をして作業し,吸い込まないように注意する。もし皮膚に付着したら,速やかに石けんでよく洗う。 | |
※ クロロホルムは有毒で,肝障害や呼吸器系の副作用があるために,もう30年以上も前から麻酔薬として使われていない。 | ||
(8) | 13,000回転で3分間遠心分離を行う。 | |
(9) | 側面からよく観察する。液を混合しないように丁寧にフタを開け,新しいチューブに上層の液をできるだけたくさん回収する。回収した液体が徐々に澄んできたことを確認する。 | |
(10) | phenol/chloroform/isoamyl-alcohol(25:24:1)を500μL加え,3分間混和する。フェノールは,変性作用が強く,健康を害するので,ビニール手袋をして作業する。皮膚に付着したら,速やかに石けんでよく洗う。 | |
(11) | 13,000回転で3分間遠心分離を行う。 | |
(12) | 側面からよく観察する。液を混合しないように丁寧にフタを開け,新しいチューブに上層の液をできるだけたくさん回収する。この段階でまだ,水の層にフェノールが残留腐蝕性があるので注意する。 | |
(13) | chloroformを500μL加え,3分間混和する。クロロホルムは,細胞膜透過性が強く,健康を害するので,ビニール手袋をして作業し,吸い込まないように注意する。もし皮膚に付着したら,速やかに石けんでよく洗う。 | |
(14) | 13,000回転で3分間遠心分離を行う。 | |
(15) | 側面からよく観察する。液を混合しないように丁寧にフタを開け,新しいチューブに上層の液をできるだけたくさん回収する。回収した液体が徐々に澄んできたことを確認する。 | |
(16) | チューブごと冷えたエタノール(-20℃,800μL)に,(15)の回収した層(約400μL)をゆっくり加える。側面から観察するとよい。加えすぎるとせっかく沈殿したエタノールが加えた水に溶解し出すので注意する。 | |
(17) | 1分間よく混和する。 | |
(18) | 13,000回転で3分間遠心分離を行う。 | |
(19) | チューブ先端部の側面に見える白色の沈殿物を確認する。 | |
(20) | 白色の沈殿物を捨てないように,エタノールを捨てる。 | |
(21) | キムワイプでエタノールの滴を取り,10分間風乾する。 | |
(22) | TE100mLを加えて,易しく指でタッピングして,溶解,混和する。 | |
※このTEに溶解したDNAが鋳型DNA(template DNA)となる。 | ||
※風乾させた乾燥DNAは,何年も保存ができる。また,液で保存するときはTEに溶解する。TEのTはTris緩衝液(バッフー)の略である。EはEDTAの略で,陽イオンのキレート剤(DNA分解酵素の活性化)である。もちろんTEは清潔に作られ,滅菌したものを使わねばならない。 |
5 参考文献
A quick and simple method for the identification of meat species and meat products by PCR assay T.Matsunaga 他 Meat Science 51(1999)pp143-148 |