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1 目的
本実験は,DNAの抽出過程のしくみについて可視的に解説し,界面活性剤や変性剤の働きやエタノール沈殿といったDNA抽出過程のポイントの意味について理解することを目的とする。 |
2 DNAの抽出(核酸の抽出)方法
◎ | DNAの抽出法 | |||||
口腔粘膜の細胞を綿棒等を使って取る。 | しぼり出すように,懸濁液を作成する。 | |||||
次に,タンパク質を除去するためにタンパク質を分解する酵素を加え,あるいは,尿素やクロロホルムでタンパク質を変性させる。こうしてタンパク質を除去した後,遠心すると三層に分離する。一番上の層にDNAが溶けているので,その層だけを別のチューブに移し変え,DNAを沈殿させる。DNAはアルコールに溶けないのでエタノールなどで沈殿させることができる。水に溶けたDNAを100%エタノールに移す。 |
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遠心分離し沈殿物を塩類溶液に溶かし,更にエタノール沈殿を繰り返し精製する。沈殿物を乾燥させ,TE(バッファー)を加えれば抽出は完了である。 | ||
→ DNAの抽出と精製方法の詳細(こちら) | ||
→ DNAの精製と純度の測定(こちら) |
3 PCR反応
このTE(バッファー)に溶かしたDNAがPCR反応における鋳型DNAとなる。 |
4 電気泳動
(1) | 電気泳動のしくみ | |
PCR産物(DNA)は,DNAの構成単位となるヌクレオチドがリン酸を含み,全体に均等にマイナスの電荷を帯びている。電圧をかけた電解質の水溶液中で,DNAは陽極に引かれて移動する。DNAは網目状の分子構造を持つアガロースゲルの中では,その分子量(長さ)に応じて移動速度が異なり,この違いを用いて分離,検出する。 |
(2) | 電気泳動装置 | |
アガロースゲルをセットし,TAE(バッファー)を満たし,DNAをウェル(穴)に注入し,50Vまたは100Vの電圧をかける。DNAの移動速度は,DNAの分子量(長さ)の他に,温度,アガロースゲルの質や濃度,バッファーの種類や濃度によっても異なる。 |
(3) | DNAのアプライ | ||
ア | ゲルの作成 | ||
イ | ローディングバッファーとPCR産物(DNA)の混合 | ||
DNAを電気泳動する際には,あらかじめDNAをローディングバッファーと混合する。これによりDNAは,泳動バッファー中に拡散することなく,アプライすることが可能となる。ローディングバッファーには,DNAを注入しやすくするために,DNAにとろみをつけるためのグリコーゲンや,キシレンシアノール(XC:黄色)やブロモフェノルブルー(BPB:青)の色素が含まれている。さらに色素は,透明なDNAの移動度を推定するための目印になる。 |
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ウ | DNAの染色剤のEt-Br(エチジウム・ブロマイド)が,TAEとゲル版に溶かしてある。ゆっくりとEt-BrがDNAに結合する。EtーBrと結合したDNAは紫外線を当てると蛍光を発し,検出することができる。 |
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(4) | 電気泳動 |
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5 いろいろなDNA分析
◎ | ヒトのALDH2の検出 | |||||||||||||||||||||||||||
マーカー A A' B B' マーカー | A,Bの2名についてALHDH2遺伝子と,ALDH2変異型について,もっているかいないかを調べた。
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◎ | メダカのミトコンドリア多型の検出 | |||
A B C D E マーカー | A〜Eは,1個体のヒレから取った組織のミトコンドリアのDNAをPCRで増幅し,5種類の制限酵素で切断したものである。 PCRプライマーによって増幅する部分の両端20塩基ずつの40塩基のチェックができる。 5種の制限酵素(各々約6塩基認識)によってPCR産物の内部の塩基配列の違い(DNA多型)のチェックができる。 日本中のメダカの分析結果と照らし合わせて,どこのメダカが同じタイプかを推定することができる。 |
◎ | タンポポの葉緑体DNAの分析 | |||
マーカー | 日本に生育するタンポポには,在来種のニホンタンポポと,その他に帰化種のセイヨウタンポポやアカミタンポポが混在している。その中で在来種と帰化種の雑種化が起こっていることが知られている。植物細胞には,核やミトコンドリア内の他,葉緑体にもDNAが含まれている。葉緑体DNAは卵細胞を経て母親から子供に伝わる。 左の写真では,上のバンドが在来種のもので,下のバンドが帰化種のものである。 2番の個体は,ニホンタンポポであるが,核は,帰化タンポポのもののみを示した。帰化タンポポの花粉の核が,ニホンタンポポの卵細胞内で発生し,ニホンタンポポの核を排除した例(雄核単為生殖)と考えられている。 核がセイヨウタンポポとニホンタンポポの雑種でも,細胞質が在来種だったり帰化種だったりするものがある。 |
◎ | ヒトのミトコンドリア多型の分析 | |||
マーカー A A’ B B’ C C’ D D’ E E’ F F ’ | A〜Fの6名のヒトミトコンドリアDNAのある領域を,2種類の制限酵素で切断したものである。何通りかの制限酵素で切断することで,縄文人に多いタイプか,弥生人に多いタイプかなど,ヒトの起源に関する情報が得られ,世界中の化石や現代人のデータと,自分のDNAを比較することができる。 |
6 プライバシーポリシー
このようなDNA分析においては,個人情報の取扱いに十分配慮すべきである。先ずは,実験テーマの選び方が問題となる。ガンや糖尿病,肥満に対するリスクなどの遺伝子判定は行うべきではない。また,ABO式血液型や耳垢の湿性,乾性など,差別とは縁遠く思えるテーマでも,社会的背景が変わることでどのように判断が変わるかは分からない。 遺伝的多型といって,遺伝子を用いていろいろなタイプにヒトを分けることができるが,一般的に遺伝子頻度の低いものは遺伝病と言われることが多く,差別の対象となり易いので扱うべきではない。血液型では差別されることはまず無いと考えられるが,鎌形赤血球症や血友病では,差別が無いとは言い切れない。また,まだまだ差別があると言われる色覚のタイプも遺伝的多型である。従って,特にヒトの遺伝子を用いる場合,差別の芽がどこに潜んでいるかは分からないので,個々の生徒にまで目の行き届いた十分な配慮が必要である。 ことさら未成年の高校生のDNAを用いる場合は,個人情報の取り扱いに十分留意し,実験目的や実験で分かることについて,十分な説明を行う必要がある。また,保護者に対しても校長名で説明文を出すなどして,理解を求めるべきである。同意書(承諾書)(doui_syo.doc)(クリックした後,任意の場所にファイルを保存してください)を取って,承諾の意思の確認を残しておくべきである。 DNA分析においては,抽出したDNAは,ゲノムDNAといわれ,その生物の遺伝子をすべて含んでいる。PCRで増幅するのは特定部位のみではあるが,抽出したDNAは,全ての遺伝子を含んでいる上に,長期保存にも耐えることができる特性をもっている。従って,教育現場では,実験が終わった時点で抽出したDNAを速やかに廃棄することが重要である。 |
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