愛知県総合教育センター研究紀要 第94集

 予防・開発的教育相談の推進に関する研究
     −行事をいかすグループ・アプローチの取組を中心として−

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はじめに
 平成14年度になって,不登校の児童生徒は初めて減少に転じたものの,依然として多い。同時に,校内での暴力行為や学級崩壊といった学校が抱える問題は多い。これら不適応行動を「予防」し,児童生徒が自らの未来を「開発」する力を育成する方法の一つとして,当センターでは平成12年度から14年度にわたって「予防・開発的教育相談の在り方に関する研究−構成的グループ・エンカウンターを中心にして−」を進めてきた。予防・開発的教育相談活動を実践することで,集団内の結びつきが強くなり,帰属意識が高まるなど効果があることが確認できた。同時に,教育活動に定着させるために以下の課題が明らかになった。
@ 週5日制の完全実施と,カリキュラム上の位置付けがないため,実践時間の確保が難しく,工夫する必要がある。
A 単発的な取組ではなく,年間計画に基づいた取組にしていく必要がある。
@ 構成的グループ・エンカウンター(SGE)以外のグループ・アプローチとの関連について研究する必要がある。

1 研究の目的
 上記課題を踏まえ,SGE以外のグループ・アプローチにも研究対象を広げ,児童生徒の生きる力を育むために,行事を核として年間計画を立て,行事を生かす(行事が活性化し,行事を意義あるものにする)グループ・アプローチの取組を通して継続的かつ,より効果的な「予防・開発的教育相談活動」を推進する方策を探る。

2 研究の方法
  「予防・開発的教育相談」を「積極的生徒指導」と等しく,「心の教育」,「道徳教育」の一環ととらえ,8人の研究協議会委員が各学校の事情に応じて,「総合的な学習の時間」及び小中学校は3領域(教科,道徳,特別活動),高校は2領域(教科,特別活動)で実践的に研究を行う。検証は従前と同じく面接,観察と「楽しい学校生活を送るためのアンケートQ-U」で行う。

3 研究の内容
 (1) 学級開き(学級づくり)の活動,学校行事前後の活動,学級を閉じる活動を核として年間計画を立てて実践したところ,個人も集団も成長し,学年末に至るまでには児童生徒の自発的,主体的活動がみられた。
 4月の環境移行時にガイダンスの一環として,学級集団づくりの活動を実施した。その後,朝の会,帰りの会などを利用してショート・エクササイズを実施し,心の居場所づくりをした。また,グループで活動する体験的な授業では活動後,振り返りの時間を設け(自己評価),活動中のお互いの良さを認め合ったり,役割遂行の在り方について振り返ったりするなど,児童生徒相互が認め合う機会とした(相互評価)。これらは各教科における日常的な取組として多くの可能性を示唆している。
 (2) 行事前後の取組としては,児童生徒が行事の有する教育的意義を十分に理解した上で,自発的に参加し協力するようにするために,事前に「行事を盛り上げてくれる人はどんな人か」とか,「縁の下の力持ちとして協力する人はどんな人か」といった質問を投げかけ,話し合わせる。その結果を教室に掲示しておく。これにより協力し頑張ることの具体的目標が明らかになり,自己の役割を果たそうとする意欲につながった。行事に主体的に取り組めた結果,満足感や成就感,自己有用感を味わうことができた。また,行事の後で仲間の頑張りを認めるときの基準ともなった。仲間からのフィードバックはなによりも児童生徒の自己有用感を育てた。
 (3) 学校教育に取り入れられている8つのグループ・アプローチの特徴を一覧にまとめた。SGEは「心の触れ合う人間関係づくり」を得意とし,学校グループ・ワーク・トレーニング(GWT)は「協力するとはどういうことかを学ぶのに多くの実践をもつ。ラボラトリー体験学習は「合意形成」「価値の明確化」の学びに豊富な事例をもつ。いずれも包括的なグループ・アプローチとして様々なスキル学習を含む。中高生にはGWTやラボラトリー体験学習の方がSGEより抵抗は少なく,SGEの導入として活用できることが分かった。

4 研究のまとめと今後の課題
 教員は,個人を見ると同時に集団を見る教育技術を高める必要と,参加体験型グループ学習の手法に習熟する必要がある。予防・開発的教育相談活動は人間関係だけを扱うのではない。今後,発達課題に応じた活動が求められている。