愛知県総合教育センター研究紀要 第95集

   心の発達の支援に関する研究(中間報告)

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はじめに

 少子化・核家族化や,地域の教育力の低下,子供の遊びの変化といった社会環境の変化を背景として,不登校,暴力行為,学級崩壊といった学校が抱える課題は深刻である。当センターではこれら不適応行動を「予防」し,児童生徒が自らの手で自らの未来を「開発」する力を育成し,「生きる力」を育む方法の一つとして構成的グループ・エンカウンター(SGE)に着目し,研究を始めた。本研究は,T期「予防・開発的な教育相談の在り方に関する研究―構成的グループ・エンカウンターを中心として―」(平成12年度〜14年度),U期「予防・開発的な教育相談の推進に関する研究―行事をいかすグループ・アプローチの取組を中心として―」(平成15年度〜16年度)に続く予防・開発的な教育相談に関する研究である。
第T期の研究では,学級活動,部活動,保護者会,教科の授業など様々な場面で実践事例を収集した結果,集団内の結びつきが強くなり,帰属意識が高まるなど効果があることが検証された。続く第U期の研究では,SGE以外のグループ・アプローチにも研究対象を広げ,行事を核とした年間計画を立て,学級で継続的に実践に取り組んだ。児童生徒が学級に「心の居場所」を見つけ,級友に存在を認められているという実感が得られたとき,級友との「絆」を実感し,子供たちは自ら課題
を発見し,解決するために自主的かつ主体的に取り組むことが確認できた。

1 研究の目的

 平成12年度に本研究の基礎となる研究を立ち上げて以来5年を経て,不登校のほかにも,現代の教育的課題として子供たちの社会的規範の低下が指摘されるようになった。また,長引く不況や企業の海外移転などの影響から失業率が増加し,若年者への求人が減少するとともに,若年者の就業意欲の低下がニートの問題として社会的に注目されるようになった。このような時代的状況と実践研究の成果を踏まえ,「心の居場所づくり」と,行事を通して「絆づくり」をした後の教育実践として,それぞれの学校の状況や児童生徒の状況に合わせ,発達の援助をする方法を探る。人間関係づくりや温かな学級づくりにとどまらず,社会性の発達や,進路意識の育成(キャリア教育)にもねらいをひろげ,児童生徒の生きる力をはぐくむことを「積極的生徒指導」と位置付け,学校教育活動において展開する可能性を探る。

2 研究の方法

 各学校の事情に応じて,「総合的な学習の時間」及び小中学校は3領域(教科,道徳,特別活動),高校は2領域(教科,特別活動)で学級の課題,学級を構成する子供たちがもつ課題に対応した活動をプログラムし,実践を行った。

3 研究の内容 

 小学校【実践1】と中学校【実践2】では少子化が進む中で,幼いときからの固定化した人間関係に変化を促し,新しい人間関係をはぐくもうとする実践として,アサーション(自分も他者も大切にする自己主張の仕方)スキルを身に付け,新しい関係を構築する可能性を探った。高校【実践4】でも,非行予防教育の中で,仲間からの誘いを断るという状況設定でアサーションに取り組んだ。小・中・高校とテーマは同じであるが,内容は異なる。発達段階に即した支援という理由である。
 話が前後するが,もう一つの高校【実践3】は,学習指導,進路指導(キャリア教育)をテーマとした。高校生ともなると,正面きっての人間関係づくりは照れてしまう傾向がある。学習指導や進路指導にグループ・アプローチの方法を取り入れ,人間関係づくりをしていく方法が,高校段階では抵抗なく取り組めるようである。
 以上,それぞれの発達段階に即したテーマと内容をもつ実践例を示した。

4 研究のまとめと今後の課題 

 U期までの研究で,学級活動でのSGEの取組を通して「心の居場所づくり」を行い,行事を通して「絆づくり」をした活動が子供たちを育てることが検証できた。これは道徳教育の視点でいう「主として自分自身に関すること」「主として他の人とのかかわりに関すること」にかかわる実践であった。本年度の取り組みは,他の二つの視点である,「主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること」「主として集団や社会とのかかわりに関すること」をテーマに実践し今後の方向性を示した。発達段階に即したこのような実践の検証が今後の課題である。

おわりに

 少子高齢社会が到来し核家族化が進む中で,集団の中での体験を通して獲得する人間関係にかかわる力や,社会性の育成に学校が果たす役割は,ますます重要になってきている。今後も実践を継続して研究を更に深めたい。