愛知県総合教育センター研究紀要 第95集

 高等学校国語科における「読解力」育成の在り方に関する研究
−文章の内容を的確に読み取り,読み味わうための評価規準,評価方法の実践例−

さらに詳しくご覧になりたい方は詳細

1 はじめに

 OECD(経済協力開発機構)による2003年PISA調査において「読解力」の低下がみられて以来,国語力の育成をめぐっては様々な課題が指摘されている。PISA調査における「読解力」では,単にテキストを読むだけでなくテキストを利用したり,テキストに基づいて自分の意見を論じたりすることが求められている。また,テキスト自体が文章とは限らず,図,グラフ,表なども含んでいる。このような「読解力」は,書かれた内容を自分の考えと結び付けて解釈したり,テキストを読むことによって明らかになった自分の考えを表現したりする学習の改善を図ることで,身に付くものである。「すべての教科の基本となる国語力」の育成のためにも,目標に準拠した評価の考え方を生かしながら,確かな言語能力を身に付けさせる授業が現在求められていると言える。

2 研究の目的 

(1)  現在求められている複合的な「読解力」の育成のために,今次学習指導要領における5項目の観点から多角的に学習状況を評価する方法を研究する。 
(2) 「読解力」育成のための,明確なねらい,重点化の方法,評価活動計画について,各学校での実践上の参考となる資料を開発する。

3 研究の方法

(1) 「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2000,2003)」等の資料を参考にして,高等学校国語科における「読解力」の現状と課題を研究する。
(2) 当センターにおける国語科の「授業の手引き」の改訂作業を通じて,評価を生かした国語科の学習指導の方法及び評価のための資料を開発する。
(3) (1),(2)で作成した資料に従って,具体的な単元レベルで,研究協力委員が所属する学校で授業実践を行い,指導と評価の在り方について検証する
(4) 総合的な学習の時間等,学校教育全体で育成すべき「読解力」の在り方についても考察の範囲とする。


4 研究の内容 

【実践1】 対比的表現に注目し,筆者の主張を読み取るための方法
−「水の東西」を中心に−
【実践2】 「PISA調査」に対応した読解力を育成するための指導
−情報の読み取りを中心に−
【実践3】 テキストを理解し,利用し,熟考するために
−新聞記事に基づく意見文−


5 研究のまとめと今後の課題 

 【実践1】では,対比構造に注目することで,筆者の主張を読み取ることに一定の効果がみられたが,対比が分かっても読み取れない生徒もみられた。獲得した情報をどう総合化させて理解させるかが今後の課題である。【実践2】では,様々な種類のテキストを用いて,書いてあることを根拠にして自分の意見を表現させたり,本文の内容を批評させたりした。不慣れなために,表現に至らない者もあったので,更に実践を重ねたい。【実践3】では,「読むこと」と密接に結び付いた「書くこと」の領域の実践を試みた。テキストに基づいて自分の力で書くことは,自分の読みを深めることにつながった。ただし,「書くこと」には,「読むこと」とは別の技術が要求されるので,今後「書くこと」本来の指導事項にも重点を置きたい。

6 おわりに

 総合的な「読解力」の育成のためには,指導と評価の計画において総合的な観点をもつことが不可欠であり,年間学習指導計画表,単元案,学習指導案等における評価規準,評価方法を見直しつつ,更なる実践を積み上げていきたい。