エクササイズ集
● 進路意識を高め,学校生活に前向きに取り組むためのエクササイズ ● |
〜 それって どんな自分? 〜■ 準備 ・ ワークシート ・ 筆記用具(色のボールペンも用意) ■ ねらい ・ ワークシートに沿って職業を選択することで分かってくる自分の個性について考える。 ・ 職業が自己表現の一つの方法であることを学ぶ。生徒自身がどのようなキャリア・アンカー(自分の選ぶ職業 の中で,どうしても譲れない大事にしているもの)をもっているのかを探ることで,進路目標の設定や将来を 展望させる。 ■ 実施出来る時間 ・ LTの時間 ・ STの時間(ワークシートTとワークシートUで二回に分けて実施) ■ 展開例 1 導入 職業を通して,自分を理解しようというエクササイズであること,職業の選択は自己表現の一つであること, 自分を表現し,それが受け入れられることが生き甲斐につながることを伝える。 2 活動 @ 4〜6人のグループを作る。できるだけ興味関心の異なる生徒同士でグループを作らせる。 A ワークシートTの64種類の職業について,自分に適しているものに○印,適していないものに×印,どち らでものないものに△印をつける。 B 印をつけ終わったら,○,×,△それぞれの数を数えて,右の欄に記入させ,印をつけた職業を見て,感 じたこと,気付いたことを感想の欄に記入させる。 C ワークシートUで,八つに分類した職業の説明を読ませ,読み終わったらワークシートTの○印の数を使 って,レーダーチャートに記入させる。 D ○印が終わったら,×印,△印のグラフの色を変えて記入させる。次に,ワークシートTとワークシート Uを見比べて,職業を選択したことによって今感じていることを記入させる。 3 振り返り 気付いたことを,感じたことについて4〜6人のグループで振り返りをする。このとき,相手の職業につい て,からかったり冷やかしたりせず,相手を尊重するように聞くことを留意させる。 4 まとめ ワークシートの中に,自分に合う職業がないからといって心配することがないように留意させる。世の中に は様々な職業があり,その職業にかかわれるかどうかを判断するもの(キャリア・アンカー)を作っておくこ と。その判断基準の一つがこの活動であり,自分にとって大事なものは何か,それを選ぶ自分はどういう考え 方をもっているかということを知ることが大切であることを伝える。参考文献 田島聡他『エンカウンターで進路指導が変わる』(図書文化社 2001)
「それってどんな自分?」ワークシートT
三つ(○,×,△)の記号を付けた職業を見ながら, 感じたことや気付いたことを下の欄に記入してください。 |
「それってどんな自分」ワークシートII ワークシートIの職業は八つのグループに分けてあり,各グループの説明が下にあります。まず,この説明 をよく読んでください。 ○Aグループの説明 このグループの共通点は「マネジメント」です。組織の頂点で自分の方針や考えを打ち出したり言いきかせ て,部下(社員)や職員の全体を動かすのです。実績を上げたり人脈をつくったりします。重い責任は行動 を振るい立たせます。 ○Bグループの説明 このグループの共通点は「プロジェクトの実行」です。プロジェクトとは重要な研究や事業の開発(例:ソ ーラーカーの開発)のことです。組織の中で物に向かって,今までの知識や経験をすべて注ぎ込んでやり遂 げることになります。 ○Cグループの説明 このグループの共通点は人を援助するための「人とのかかわり」で,信頼関係を築くこと自体を目的としま す。ヘルピング・プロフェッションといって,心身の治療,人命の救助や救済,高齢者や身体障害者の介護 ・養護が主たる仕事です。 ○Dグループの説明 このグループの特徴は「使命感に燃える」ところです。使命感とは任務に忠実であろうとする気持ちです。 制服やバッジは社会的使命を象徴しています。私たちの生活の自由と安全と秩序と権利を守ることがこのグ ループの職業の共通点です。 ○Eグループの説明 このグループの特徴は生活の安定です。仕事の内容や日課が一定で,手堅く確かな仕事ぶりが要求されます が,解雇や出向に気をもむことはありません。このような安定が仕事と生き方(ライフスタイル)の基本に なっています。 ○Fグループの説明 このグループの共通点は「多様な行動や応対」です。お客や相手の好みや求め,そして考え方・受け止め方 に柔軟に対応したり対処したりする必要があります。自分の好みや考え方(自説)は,とりあえず脇に置い ておけるゆとりが必要です。 ○Gグループの説明 このグループに属する職業に就いている人々は,極めて見方や考え方が独創的(真似をしたり模倣しない) です。何もないところから自分の思いやアイデアに従って,古いものにとらわれず新しいものを創造する意 欲があります。 ○Hグループの説明 このグループの職業に就いている人々はかなりのこだわりと独立志向,個人志向をもっています。組織の一 員として働くことを好まず,自分の思い入れや好みを追求することに仕事の意味(生きる意味=人生の意味) を見出しています。 次の作業に入ります。ワークシートIを見てください。 このワークシートに0,×,△の印をした数をA〜Hのそれぞれの欄のかっこに 書いてください。この印をした概によって下のグラフを作ります。 (中心が0,いちばん外側が8です) 1.ワークシート|の表のAの欄〜Hの欄の○の数を下の八角形のグラフに記入して,その点を黒色の線で結んでください。 2.ワークシートIの表のAの欄〜Hの欄の×の数を下のハ角形のグラフに記入して,その点を赤色の線で結んでください。 3.ワークシートIの表のAの欄〜Hの欄の△の数を下のハ角形のグラフに記入して,その点を青色の線で結んでください。 4.いま,A〜Hのグループの説明を読んで,上のグラフを作りました。このグラフとワークシートIを見て,いま自分が 今感じたこと,気付いたことを書いてください。 |
キャリア・アンカーとは何か 人生という長い航海で,安全な港に停泊するためのその人なりの碇。 この碇は,経験を重ね悩みながら熟成する。 キャリア・アンカーを提唱したのは,マサチューセッツエ科大学教授エドガー・H・シャインである。シャ インは,同大学の学生を対象に,卒業後の職業生活について十年余にわたり調査した。 この調査から,次のことが分かった。個人が職業を選択するときには,必ず大事にしたい,こだわりたいと いうような興味や能力や欲求・価値観,そして態度といったものがある。「選択する」とは,一方で何かを捨 てることであるが,「捨てきれない何か」があるというのである。 シャインは,この捨てきれない何かを総称して「キャリア・アンカー(「進路の碇」)」と命名した。そし て八つのアンカーを設定した。エクササイズ「それってどんな自分?」はシャインのこの仮説をもとに開発さ れ,AからHまでの八つの職業群はそれぞれのキャリア・アンカーを実現したものになっている。 職業生活は私たちの人生の大半を占めるし,人生という私たちのもち時間は船の航海に例えられることが多 いので,「人生の碇」と広い意味で理解してもよい。 シャインは,キャリア・アンカーは「発達」するものであると説いている。つまり,私たちが職業経験を積 んでいく過程で,経験の中から自分に合った興味や能力,欲求・価値観,そして態度というようなものが,ふ くらんだり整理されたりしてまとまってくるというのである。私たちの中にはいろいろな動機や興味,能力, 欲求,考え方・見方がある。これらのものは,その人の職業生活の積み重ねの中で変化し,この変化を通して 統合されるのである。 社会に出たばかりの若者は,自分のもっているもの(例:興味,能力,欲求,価値観)が定かでないことに 悩み,一方,自分の描いていた職業生活と実際の職業生活の間のギャップに悩むことが多い。この悩みは,理 想と現実の狭間に漂う時間なのである。 しかし,こういった一連の悩みを通して若者は変容し,自分が何者であるかということを突き止めることに なる。つまり,若者はその時点でのキャリア・アンカーを発見し,安全な港にたどり着き,碇を下ろして停泊 することになる。 シャインはこう述べる。「人は職業経験を積み重ねることを通して一つのキャリア・アンカーに収束する」 と。本書(「エンカウンターで進路指導が変わる」)でキャリア・アンカーをあえて取り上げたのは,大人も 生徒も人生を送るうえでいろいろ悩みながらも,一つのキャリア・アンカーに「熟成」するということを知っ てほしいと考えたからである。「働きながら学ぶ」という熟成は自己実現である。熟成には柔軟性がなくては ならない。 [田島聡] |