愛知県総合教育センター研究紀要 第95集心 の 発 達 の 支 援 に 関 す る 研 究 (中間報告)<検索キーワード> グループ・アプローチ 構成的グループ・エンカウンター 積極的生徒指導 キャリア教育 社会性 学習指導 予防開発 教育相談
本研究は,T期(平成12年度〜14年度),U期(平成15年度〜16年度)に続く研究である。これまで の研究で,行事を核とした,グループ・アプローチの計画的,継続的実践を通して共感的人間関係が形 成され(心の居場所づくり),行事に協力して取り組む過程において児童生徒は自己有用感を得ること ができた(絆づくり)。本研究では,人間関係づくり後の取組として,心の発達を支援する「積極的生 徒指導」の可能性を探った。社会性の育成,学習指導,キャリア教育の実践を中間報告する。
研究会委員 扶桑町立扶桑東小学校教諭 豊田市立御蔵小学校教諭 安城市立桜町小学校教諭 春日井市立柏原中学校養護教諭 蒲郡市立形原中学校教諭 蒲郡市立大塚中学校教諭 県立東郷高等学校教諭 県立小坂井高等学校教諭 県立岡崎工業高等学校教諭 総合教育センター教育相談研究室長 総合教育センター研究指導主事 総合教育センター研究指導主事 総合教育センター研究指導主事 総合教育センター研究指導主事 千田みどり 小川 洋一 柴田 辰之 辻本 祐子 松本 康利 宇野 晶由 柴田 智宏 太田 恭子 岡久 雅浩 村上 慎一 遠山久美子 村越 英昭 正木 克典 浜島利枝子(主務者)
はじめに 不登校児童生徒数は平成13年度をピークにして,平成14年度に減少に転じたものの依然として多い。また,学 校関係者や,教育行政にかかわる者の様々な努力にもかかわらず,暴力行為,学級崩壊といった学校が抱える課 題もまた深刻である。少子化・核家族化や,地域の教育力の低下,子供の遊びの変化といった社会環境の変化に よって,児童生徒が学齢期前に身に付けるべき社会性を身に付けないままに小学校に入学していることがこれら 課題の背景としてあるという指摘もある。 当センターではこれら不適応行動を「予防」し,児童生徒が自らの手で自らの未来を「開発」する力を育成し, 「生きる力」をはぐくむ方法の一つとして構成的グループ・エンカウンター(SGE,P.109参照)に着目して 平成12年度から研究を始めた。本研究は第T期「予防・開発的教育相談の在り方に関する研究―構成的グループ ・エンカウンターを中心にして―」(平成12年度〜14年度),第U期「予防・開発的教育相談の推進に関する研 究―行事をいかすグループ・アプローチを中心として―」(平成15年度〜16年度)に続く第V期の研究であり, 本年,平成17年4月に立ち上げたものである。 今回の中間報告は,これまでの研究成果を踏まえて今後の研究の方向性を提案する。まず,平成16年度までの 研究報告で明らかになったことを概観することとする。 第T期(平成12年度〜14年度) 第T期「予防・開発的教育相談の在り方に関する研究―構成的グループ・エンカウンターを中心にして―」( 平成12年度〜14年度)と題する研究では,学級活動,部活動,保護者会,教科の授業等,様々な場面で実践した ところ,予防・開発的教育相談活動を実践することで,集団内の結びつきが強くなり,帰属意識が高まるなど効 果があることが確認できた。同時に,教育活動に定着させるために以下の課題が明らかになった。 @ 週5日制の完全実施と,カリキュラム上の位置付けがないため,実践時間の確保が難しく,工夫する必要 がある。 A 単発的な取組ではなく,年間計画に基づいた取組にしていく必要がある。 B 構成的グループ・エンカウンター(SGE)以外のグループ・アプローチとの関連について研究する必要 がある。 第U期(平成15年度〜16年度) 第T期の研究成果を踏まえて,続く第U期(平成15年度〜16年度)においては,実践時間の確保と年間計画に 基づいた実践を目指して,「予防開発的教育相談の推進に関する研究―行事をいかすグループ・アプローチを中 心として―」を進めた。 実践時間の確保のために,朝の会,帰りの会を活用したり,活動的な授業の後に振り返りの時間を設けたりす るなどの工夫を行った。年間計画については,実施しやすさを考えて,行事を核とした計画を立てた。4月の学 級開き,年間を通しての学校行事前後の活動,3月の学級を閉じる活動が中心となる。
@ 4月の環境移行時にガイダンスの一環として,学級集団づくりの活動をする。その後,朝の会,帰り の会などを利用してショート・エクササイズを実施し,「心の居場所づくり」をする。 A 行事の前には,児童生徒が,行事の有する教育的意義を十分に理解した上で,自発的に参加し,協力 するようにするために,事前に「行事を盛り上げてくれる人はどんな人か」とか,「縁の下の力持ちと して協力する人はどんな人か」といった質問を投げかけ,話し合わせる。その後,それを教室に掲示し ておく。これにより協力し頑張ることの具体的目標が明らかになり,自己の役割を果たそうとする意欲 につながる。こうして,主体的に取り組んだ行事であれば,満足感や成就感,自己効力感を味わうこと ができる。また,行事の後で仲間の頑張りを褒めるときの規準ともなる。仲間からのフィードバックは なによりも児童生徒の自己有用感を育て,「心の絆づくり」の意味をもつことになる。
第U期の研究の結果,行事を核とした年間計画を立てて継続的に取り組むと効果が大きいことが明らかになった。「楽しい学校生活を送るためのアンケートQ‐U」(P.114〜P.115 参照)では学級生活満足群に属する児童生徒が大幅に増加した。児童生徒がクラスを居心地がよいと感じ,みんなに存在を認められているという実感がえられ,マズローのいう所属欲求や,承認欲求(P.115〜P.116 参照)が満たされたとき,児童生徒は自ら課題を発見し,課題を解決するために自主的かつ主体的に取り組むことが確認できた。学級活動での取組を通しての「心の居場所づくり」,行事を通しての「心の絆づくり」の取組が児童生徒を育てることに効果がある方法として位置付けることができた。
3点目の課題への対応として,SGE以外のグループ・アプローチにも実践を広げ,報告した。また,「学校教育に取り入れられている主なグループ・アプローチ一覧表」(P.117〜P.118 参照)にまとめた。
今年度立ち上げた「心の発達の支援に関する研究」はこれまでに述べた今までの研究成果を基盤にし,更に発展させるものである。