グループ・アプローチQ&A



グループ・アプローチQ&A
・・・ある程度学んで、他のグループ・アプローチとの関連を知りたいという人のために・・・


Q1 構成的グループ・エンカウンター(SGE)とは何ですか?
A1 構成的グループ・エンカウンターとは、Structured Group Encounterを略してSGEとも呼ばれています。
「構成的」とは枠(@時間,Aグループサイズ,Bエクササイズ,Cルール)を設定すること。「グループ」とは
集団体験を通して学ぶということ。「エンカウンター」とは本音と本音のふれあいのこと。即ち,枠を設定して集
団体験を通してホンネとホンネのふれあい(人間関係づくり)と自己発見を促し,人間的な自己成長をねらう活動
です。枠を設定しているために教育現場になじみやすいといえます。
 これに対して,非構成的なグループ体験をベーシック・エンカウンター・グループ(BEG:Basic Encounter 
Group)といいます。1グループ10人前後で構成し,3泊4日位の期間,寝食を共にして,決められた時間をともに
過ごすという以外の枠の設定はありません。静かな雰囲気の中で,話したくなった人が話します。9セッション程
度を繰り返します。機能としては,@個人の問題の提議,A心の葛藤と向き合い,分かち合います。B現実の理解
と同意,C秘密の告白,D自己受容,他者への共感,自己一致の経験などが挙げられます。誰も話すことを強要し
ないし,強要されません。極端な場合,沈黙が1時間以上続くこともあります。個人的な対立になったときにはフ
ァシリテーター(SGEでいうところのリーダー)が介入します。時間がかかり,学校教育にはなじみません。児
童生徒には難しいし,フ ァシリテーター役も難しいと言われています。



Q2 ジェネリックSGEとスペシフィックSGEとは何ですか?
A2 構成的グループ・エンカウンター(SGE)には,ジェネリックSGEとスペシフィックSGEがあります。
ジェネリックSGEは触れ合いと自他発見による,参加メンバーの「行動変容」を目的とする,「構成」された集
中的グループ体験です。健康な成人を対象にするために,自己の内面に迫る,参加者の内面を揺さぶるようなエク
ササイズを試みます。1セッション(60分〜90分)を全体シェアリングに充てます。シェアリングが一つのエクサ
イズになります。全体シェアリングで扱う内容はベーシック・エンカウンター・グループ(BEG)のセッションに
近いですが,時間的枠があること,リーダーの積極的介入がある点で大きく異なります。内容的には自己の内面に
深く迫るという意味でベーシック・エンカウンター・グループに近いといえます。文化的孤島で,3泊4日くらい
の期間寝食を共にすることも共通しています。図1をご覧下さい。
 スペシフィックSGEは触れ合いと自他発見を目標として,学習者(児童生徒,学生,受講者など)の教育課題 の達成を目的とします。学校教育の中に取り入れられているSGE(スクールSGEともいう)はすべてスペシフィ ックSGEです。「学校教育に取り入れる場合,対象が児童生徒となり,その多くは自我が未成熟です。未成熟だと いうことは欲求不満耐性に欠けます。欲求不満耐性に欠けると見たくない自分が見えてきたとき,心の傷になりやす いといえます。したがって内面を揺さぶるようなエクササイズは実施せず,多くの児童生徒が抵抗なく取り組めるエ クササイズを展開するのが望ましい」(構成的グループ・エンカウンター事典)といえます。内容的には自己を見つ める(自己発見)エンカウンターより,他者とかかわる(人間関係づくりの)エンカウンターがふさわしいでしょう。 自己発見をテーマにするならば,児童生徒の発達段階にあわせて穏やかな形にすることが大切です。  構成的グループ・エンカウンターが学校教育の中に取り入れられていますが,その多くは学級で行われ,「温かな 学級づくり」とか,「心の居場所づくり」など他者とのかかわりを目標としたものが多いのも納得できます。教科指 導の中でも展開されますが,その場合,当該授業の目標や目的の達成が優先され,SGE本来の目標や目的の達成に ついては,一義的なものではなくなります。



Q3 構成的グループ・エンカウンター(SGE)の3本の柱とはなんですか?
A3 構成的グループ・エンカウンターを展開するときの3本の柱のことです。それは,インストラクション,エク
ササイズ,シェアリングです。
 はじめに,インストラクションで,エクササイズの目的,やり方,ルールの教示をします。次に,行うエクササイ
ズとは,心理的成長を促進するための課題です。最後のシェアリングでは,エクササイズを通して,感じたこと,考
えたこと,学んだこと,気付いたことを振り返り,共有します。振り返り用紙による個別の振り返り,グループによ
る分かち合い,クラス全体の分かち合いなどがあります。児童生徒にとって,この振り返りの場が多くの学びの場と
なります。自己と他者との間の類似点や相違点に気付く中で自己を認識するための準拠枠(よりどころ)が発達して
いくからです。



Q4 グループ・アプローチとはなんですか?
A4 グループ・アプローチとは個人の成長,教育,対人関係の改善,組織開発などを目的として,集団の機能,課
程,力動を用いる各種アプローチの総称です。各種グループ・アプローチのうち,ライフスキル,ラボラトリー体験
学習,学校グループ・ワーク・トレーニング(GWT), 構成的グループ・エンカウンター(SGE), 日本のピ
ア・サポート・プログラム,子供のアサーション・スキル教育,ストレス・マネジメント教育,ソーシャル・スキル
教育を取り上げて「学校教育に取り入れられている主なグループ・アプローチ一覧表」(P.117〜P.118)にまとめま
した。参考にしてください。



Q5 ライフスキルとはなんですか?
A5 ライフスキルとは,WHO(世界保健機構)がまとめたガイドラインです。WHOはライフスキルを「日常的
に生じる様々な問題や要求に対して建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会的能力である」と定義してい
ます。学校教育環境にライフスキル教育を導入するために,WHOは5領域10スキル(P.110【図2】参照)としてま とめています。各領域で上段に書かれているのは自分自身にかかわるスキルであり,下段に書かれているのは他者と のかかわりに必要なスキルです。  ライフスキル教育を学校教育で実施するプログラムとしては,アメリカの健康財団が開発した(Know Your Body) プログラムをベースにしてJKYB(Japan Know Your Body)が日本版を開発しています。健康教育からのアプロー チが多く,@喫煙防止教育A性(エイズ)教育B薬物やアルコールなどの依存防止教育C食物栄養教育として,「保 健体育科」「家庭科」で実践されています。  JIYD(Japan Initiative For Youth Development 特定非営利活動法人青少年育成支援フォーラム)は,アメリ カのルーセントテクノロジー財団が開発したLions-Quest「思春期のライフスキル教育」プログラムを紹介し,一部の 中学校で,「総合的な学習の時間」として実践されています。  いずれも,WHOの定めたライフスキルのいくつかを取り上げたプログラムである点は共通しますが,JKYBの カリキュラムとJIYDのカリキュラムは異なります。また,双方ともWHOの10スキルをすべて取り上げているわ けではないことを確認しておきたいと思います。



Q6 ラボラトリー体験学習とはなんですか?
A6 ラボラトリー体験学習は,「人間関係トレーニング」とも呼ばれている体験学習の一つです。グループの中
での気付きを通して,「人間関係の本質は何か」「自己とは,他者とは,人間とは何か」「かかわって生きるとは
どういうことか」「グループや組織の本質とは何か」などを見極めます。同時に,自己理解や,自己受容を深め,
他者を共感的に理解し,受容する能力を高めます。また,葛藤を処理し,対話的に生きる態度を養い,グループ内
に信頼関係を形成していく力を養います。内容としては,自己概念や価値の明確化,聞くこと話すことなどのコミ
ュニケーション過程,非言語活動による気付き,グループによる問題解決過程,葛藤処理過程,コンセンサス(合
意形成)を求めての集団決定過程,組織行動など様々な分野にわたっての実習があります。学校教育に取り入れら
れているのは,情報紙(それぞれが持っている紙片に書かれた情報を伝え合うことによって,課題を解決する活動)
やコンセンサス実習(多数決ではなく,徹底した話し合いによって納得した上で,グループとしての意見をまとめ
ていく活動)があります。集団の中でどのような働きをしたか,集団の目的達成のためにどのようにかかわること
が必要かなどの気付きをもたらしてくれます。リーダーシップについて学ぶこともできます。ラボラトリー体験学
習が企業人を対象とした研修にも多く取り入れられているのは,こういう理由によると思われます。
 本来のラボラトリー体験学習には,@Tグループ(トレーニング・グループ)と呼ばれる,集中的なグループ体
験A構造化した実習と振り返りB小講義C記入用紙やチェックリストという4つの構成要素がありますが,学校教
育に取り入れられているのはA〜Cです。
 Tグループは非構成的であり,ジェネリック・エンカウンターや,ベーシック・エンカウンター・グループのそ
れと似ています。いずれも学校教育にはなじみません。



Q7 ラボラトリー体験学習と構成的グループ・エンカウンターとの違いは何ですか?
A7 ラボラトリー体験学習はグループ・ダイナミクス(集団力動)の研究から発生しているために,「組
織づくり」や「組織開発」をねらいとした活動が豊かです。構成的グループ・エンカウンターとの違いを明確に
するために,端的に言うと,構成的グループ・エンカウンターは「人間関係づくり」と「自己発見」をねらいとし
ています。ラボラトリー体験学習は,「組織づくり,組織開発」と「自己発見」をねらいとしていると言えます。ラ
ボラトリー体験学習も,構成的グループ・エンカウンターも,「自己と向き合うこと」をテーマにしているのは共通
します。構成的グループ・エンカウンターで,「自己と向き合うこと」の対極にあるのは人間関係づくりであり,ラ
ボラトリー体験学習で「自己と向き合うこと」の対極にあるのは組織づくり,組織開発であるということで整理でき
ると思います。【図3】のようにまとめることができます。「自己発見」以外にも,自己受容を深め,他者を共感的
に理解し,受容する能力を高めたり,グループ内に信頼関係を形成したりする力を養います。自己概念や価値(観)
の明確化,聴くこと話すことなどのコミュニケーション過程,非言語活動による気付きを促す活動など共通する活動
は多いといえます。
 なかなか話せない児童生徒に対して,ラボラトリー体験学習にある,情報紙を使って,お互いがもっている情報を
どうしても伝えなければならない状況を設定することにより,話すことのトレーニングの第一段階とすることもでき
ます。
 双方とも,宿泊研修で扱うものは,ともに自己と向き合うことをテーマにしています。同じような内容を扱いなが
ら,ジェネリック・エンカウンターといわれたり,Tグループといわれたりしているというところでしょう。ベーシ
ック・エンカウンター(BEG)も内容的には同じようなことを扱っています。似ていますが,まったく同じではあ
りません。細かな違いは経験していただくとよいでしょう。
 学校グループ・ワーク・トレーニング(GWT)は,一つの活動で実施時間が2,3時間になるラボラトリー体験
学習を,学校向けに1授業時間に収まるようにプログラムしたものです
 学校教育に取り入れられているスペシフィック・エンカウンターを「スクール・エンカウンター」と呼ぶ人もいま す。スクール・エンカウンターとジェネリック・エンカウンターの関係は,GWT(学校グループ・ワーク・トレー ニング)とTグループの関係に対応するといえるでしょう。



Q8 ライフスキルと他のグループ・アプローチとの関係はどのようになっていますか?
A8 ライフスキルがもっとも多くの内容を扱っています。ライフスキル,ラボラトリー体験学習,学校グルー
プ・ワーク・トレーニング(GWT), 構成的グループ・エンカウンター(SGE)は,アサーション・スキルや,
ソーシャル・スキルなど,個々のスキル学習も取り込んでいます。それぞれの活動(各グループ・アプローチにより
エクササイズとか,ワークとか,アクティヴィティとか実習とよばれる)の内容をみるとコミュニケーションや人間
関係に関するスキルなど共通するものも多いと言えます。例えば,ライフスキルのT領域,V領域,W領域及びX領
域は構成的グループ・エンカウンターにおいても実践例があり,T領域,V領域,W領域はラボラトリー体験学習や
学校グループ・ワーク・トレーニングにおいても,実践されています。
 上記のように,扱う内容はそれぞれのグループ・アプローチが相互に影響しあっており,広い意味での「体験学習」
(狭い意味ではラボラトリー体験学習をさす)とか,参加体験型グループ学習(ワークショップ型学習)とまとめて
もよいような状況が見られます。こうした分類は,それぞれのグループ・アプローチを峻別することを目的としてい
るわけではありません。実践しようとしたときに,ねらいに応じて,豊富なプログラムをもっているグループ・アプ
ローチの文献にあたることをお勧めしたいためです。
 ライフスキルの活動内容(T〜X)をベースにして,各グループ・アプローチの活動内容との関係を【表1】に示
しました。現在,多くの教員がエクササイズや実習を開発し,続々と実践集が出版されたり,WEB上で公開された
りしていますから,網羅できていない可能性はあります。また,一つの活動をめぐって,解釈の違いなどもあります
から,この表をそのまま受け容れられないという方もきっといると思います。様々な概念を整理するための便宜的な
表とご理解いただきたいと思います。

【表1 ライフスキルの活動内容と他のグループ・アプローチの活動内容】

ライフスキル
ラボラトリー
体験学習
GWT
構成的
グループ・
エンカウン
ター
日本のピア・
サポート・
プログラム
【領域1】
子供のア
サーショ
ン・プロ
グラム
ストレス・
マネジメン
ソーシャ
ル・スキル
T @意志決定スキル
A問題解決スキル


U B創造的思考スキル
C批判的思考スキル






V D対人関係スキル
E効果的コミュニケーション・スキル

W F自己認識スキル
G共感性スキル


X H情動抑制スキル
Iストレス対処スキル



 ラボラトリー体験学習を特徴付けている実習の一つに「価値の明確化」があります。この「価値の明確化」とと もにライフスキルのU領域「創造的思考スキル,批判的思考スキル」とは,思春期以降の生徒に学習させていきた いスキルですが,他のグループ・アプローチはこの種のプログラムをほとんどもっていないようです。  「学校教育に取り入れられている主なグループ・アプローチ一覧表」(P.117〜P.118)の「目標」の項目にまと めたように,構成的グループ・エンカウンターは「生きる力,問題を解決する力を培う心の触れ合う人間関係づく り」を得意とします。「心の触れ合う人間関係づくり」のために自己開示による感情交流を求めてきますが,自意 識の強くなる中高生にとって,まだよく知らない者への自己開示は抵抗が強いでしょう。  一方,ラボラトリー体験学習はグループ・ダイナミクス(集団力動)の研究に起源があり,目的の一つは組織目 標の達成過程のグループ内での動きを観察することであり,知的な活動となる傾向があります。中高校生に対して は,当初ラボラトリー体験学習でグループ・アプローチに慣れさせ,その後,構成的グループ・エンカウンターに 取り組むのも一つの方法でしょう。ラボラトリー体験学習から派生した学校グループワークトレーニング(GWT) は「協力するとはどういうことかに気づく」ことを得意としているので,中学校や高校は,こちらを活用してもよ いでしょう。



Q9 構成的グループ・エンカウンターとスキル・トレーニングとの違いは何でしょう?
A9 構成的グループ・エンカウンターはあくまでも自己開示による感情交流に重点があるといえます。スキル
・トレーニングはスキルの習得そのものに目的があるといえます。しかし,まったく異なるものではありません。構成
的グループ・エンカウンターは種々のスキル・トレーニングを取り入れています。スキル・トレーニングも,基本的に
参加体験型のグループ学習であるために副次的にメンバー相互の感情交流が期待できます。発生的にはそれぞれ異なっ
ていますから,違いは認められるものの,体験学習の循環過程(体験⇒気付きの指摘⇒分析⇒応用)があることや,参
加体験型のグループ学習であることなど共通点は多いといえます。感情交流や振り返りを重視すれば構成的グループ・
エンカウンターに限りなく近くなります。児童生徒の発達段階に合った方法を取捨選択するということが重要でしょう。



Q10 構成的グループ・エンカウンターの実践集を読んでいると「Q‐U」という言葉がよく出てきます。
 「Q-U」とはなんですか?
A10 「Q‐U」は「楽しい学校生活を送るためのアンケートQ-U(Questionnaire-Utilities)」というの
が正式な名前です。児童生徒の個別指導や,学級経営に必要な指針を提供してくれます。「楽しい学校生活を送
るためのアンケートQ-U」は小学校用,中学校用,高校用があり,以下の三つのアンケートから構成されます。
@「学校生活意欲尺度(やる気のあるクラスにするためのアンケート)」
A「学級生活満足度尺度(いごこちのよいクラスにするためのアンケート)」   
B「自由記述アンケート」=子供の状況を把握します。
■実施方法は,児童生徒に用紙を配布し,あまり長い時間考えずに小学校用は4件法,中・高校用は5件法で答えても
らいます。帰りの会などで,5〜10分程度で実施できます。
■学校生活意欲度尺度は,児童生徒の学級生活における意欲や適応度をみるものです。小学校は@「友人との関係」A
「学級との関係」B「学習意欲」の3項目について各3つの質問に答えます。中・高校は@〜Bに加えてC「教師との関
係」D「進路意識」の5項目について各4つの質問に答えます。総合点から,学級の中で意欲的に生活しているかどうか
を把握できます。各領域の合計得点からは,「友人との関係」「学級との関係」「学習意欲」(以下は中・高校のみ)「教
師との関係」「進路意識」など,子供が学校生活の中のどの場面について,特に意欲をもっているかを把握できます。
学級満足度尺度の結果とも合わせ個別指導や,学級経営に必要な指針を提供してくれます。
■学級満足度尺度は,学級集団の状態を把握するためのものです。子供が現在の学級にどのくらい満足しているかを測る
ことができます。
 承認得点と被侵害得点の二つを組み合わせて測定します。承認得点は「私はクラスの中で存在感がある」「学級内に本
音や悩みを話せる友人がいる」などの学級の中で自分が認められているという思いを測っています。また,被侵害得点
は「学級の人から無視されるようなことがある」「学校に行きたくない時がある」などの,学級の中でいじめや悪ふざけ
などを受けているという思いを測ります。小学校は12項目,中・高校は20項目の質問からなります。

■【図4】のような分布図に結果を記述します。結果の分布図は,承認得点
をY軸,被侵害得点をX軸にとっています。X軸とY軸の交点は全国平均値
です。この交点を基準に,児童生徒の学級への満足感を4つの群に分類しま
す4つの群の意味は次のとおりです。
■【学級生活満足群】学級のなかで存在感があり,いじめや悪ふざけを受け
ている可能性が低い児童生徒です。承認得点が高く,被侵害得点が低い。
この群にプロットされる児童生徒は,意欲ある活動を認め,より広い領域で
活動できるように援助するのがよいでしょう。アンケート結果と教員による
観察が異なる場合,過剰に適応しようとしている可能性があるので留意しま
す。
■【侵害行為認知群】自主的に活動しているが少し自己中心的な傾向があり,
ほかの子供とトラブルを起こしている可能性が高い児童生徒です。承認得点
と被侵害得点の両方が高い児童生徒です。いじめ被害やトラブルについて個
別に話し合う配慮が必要です。


■【非承認群】いじめや悪ふざけを受けている可能性は低いが,認められることが少なく自主的に活動することが少
ない目立たない児童生徒です。承認得点と被侵害得点の両方が低い児童生徒です。集団場面でほめたり,活躍できる
場を与えたりするなどの配慮をします。

■【学級生活不満足群】いじめや悪ふざけを受けている可能性が高く,学級の中に自分の居場所がみいだせない児童
生徒です。承認得点が低く,被侵害得点が高い児童生徒です。日常的な観察を重点的に行い,特別な配慮が必要です。



Q11 Q−U理論的背景はどのようになっていますか?
A11 Q-Uの理論的背景は「マズローの欲求階層説」です。「人間はいろいろの欲求を持っているが,下位の
欲求が満たされるとより上位の欲求を満たそうとする。人間の欲求は『基本的欲求(衣食住)』から『安全欲求』,
『所属欲求』,『承認欲求』等を経て最後に『自己実現欲求』に至る」という説です。

●第一段階は生存欲求です。食欲,睡眠欲など生命を維持するための欲求が満た
 された時に次の欲求にうつります。
●第二段階は安全欲求です。自分の存在や生活上安全や安定を求める欲求です。
 死んだり,怪我したりしたくないという欲求です。いじめや虐待を受けていれ
 ば,勉強など自己実現の欲求はわきません。
● 第三段階は所属欲求です。集団に帰属し,仲間として受け入れられたい,他
 人と関係をもちたいという欲求です。仲間がほしい,愛されたいという欲求で
 す。小学校高学年から中学・高校にかけて,思春期に入ると親からの自立が発
 達課題として表れます。第二次反抗期で親を否定しますが,まだ一人では立て
 ないので仲間を必要とします。だから,クラスで無視されるようなことは非常
 に辛い。仲間からの「シカト(無視)」よりは「パシリ」を選択する心理です。
 共感的人間関係が形成された学級づくりが必要とされる理由です。

●第四段階は承認(自我・自尊)欲求です。自分が周囲から価値ある存在として認められ(褒められ),尊敬される
ことを求める欲求です。この欲求も上記と同じ理由で思春期に特に強くなります。学級の中で自分は認められている,
必要とされているという思いを求めています。学習活動で活躍の場が得られない児童生徒は外の場面でこの欲求が満
たされるような配慮が必要です。学級(ホームルーム)活動などを活用すると,共感的人間関係が育成された集団の
中で,行事など一つの共通した目標を達成していく過程において,普段目立たない児童生徒にも級友から認められる
場を提供できます。また,相手とのかかわりの中で行動することを通して,連帯感が育成され,学級や学校の一員と
しての自覚や意欲も高められます。                   
●第五段階として自己実現の欲求があります。自己の能力,可能性を発揮したり,創造的活動や自己の成長を希求し
たりしようとします。自分らしく生きたい,真なるもの,善なるもの,美なるものを求め,人の役に立ちたいと願い,
社会的自己実現を図ろうとする心情です。

 Q-Uの承認得点は承認欲求の満足度であり,被侵害得点は所属欲求の満足度です。承認欲求,所属欲求が満たされ
ていれば,学級生活満足群にプロットされます。両方が満たされていなければ学級生活不満足群にプロットされるこ
とになります。すべての児童生徒が学級生活満足群にプロットされる学校は全国の小学校では4%,中学校では2%
です。このような学級は,児童生徒が相互に無条件に尊重しあうことができる学級であり,ありのままに自分を語り,
共感的に理解し合う人間関係があります。児童生徒はそのかかわりの中で自己の存在感を見いだすことになります。
人間は大人も含めて,他者とのかかわりの中で生きており,そのかかわりの中で自己の存在感を見いだせる時,生き
生きと活動できます。確かな自己存在感を得ることなしに,その自己実現は図れないということです。



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