愛知県総合教育センター研究紀要 第97集
  食育に視点を据えた児童生徒の指導の在り方に関する研究
        −心と体をはぐくみ,食文化を伝える食育を目指して−

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1 はじめに

 近年,食生活の乱れやそこに起因する健康を脅かす問題が深刻化し,従来食事を通して培われてきた心の育成や文化の伝承が忘れられつつある。また,食の安全性も揺らいでいる。本研究では,食は豊かな人間性をはぐくみ,豊かな社会づくりにつながるという理念を基にし,小・中・高等学校で効果的に食育を進めるために,食を扱う主な教科である家庭科を軸にした児童生徒の指導の在り方を提案していく。

2 食の指導の充実に関する施策等の流れ

  最近の施策としては,平成19年に,文部科学省より「食に関する指導の手引」が出され,学校における食育の推進について,より具体的に示された。愛知県においては,平成18年「あいち食育いきいきプラン 愛知県食育推進計画」を作成した。

3 研究目的

  小学校の生活科,総合的な学習の時間及び家庭科,中・高等学校の家庭科を軸にした児童生徒の食に関する指導の在り方を提案するとともに,研究協力委員の各校の児童生徒の食にかかわる実態をアンケートにより把握し,分析を行う。研究構想及び実態に基づき各校で実践を行い,食に関心をもち,自己の食生活を見つめ直し,よりよい食生活を自ら追求しようとする児童生徒の育成を目指す。

4 研究方法

 研究協力委員(小学校教諭1人,中・高等学校家庭科教諭3人)により,各学校の児童生徒の実態を把握し,学習計画を立て,実践を行うとともに,理論,手だての有効性を検証し考察する。

5 研究内容

(1) 研究に当たって
 各教科等で取り扱われている食にかかわりのある学習を表にまとめ,学校の実情や児童生徒の実態を基に,可能な範囲で関連付けた総合的な指導計画を立てる。また,家庭科は食に関する内容を扱う中心的な教科であり,その指導内容及び基礎・基本を明確にすることで,知識・技術の定着及び各校種の連携を図る。
(2) 研究構想
 「心」「体」「食文化」の三つの側面から目指す児童生徒像「食に関心をもち,よりよい食生活を自ら追求する児童生徒」の具現を図る。
 また,目指す児童生徒像に迫るために,次の三点を工夫する。
家庭科を中心とした教育活動の有機的関連,家庭,社会との連携を図った系統的な学習計画
小・中・高等学校を通した家庭科における食の内容の基礎・基本の体系化
基礎・基本を確実に定着させるための学習指導の工夫
(3) 対象の実態把握及び考察
 実践を進めるに当たり,対象となる児童生徒の食にかかわる実態をつかむために朝食,夕食,食文化,食事作りについてのアンケートを実施し,考察を行う。
(4) 実践概要
【田原市立野田小学校】【岩倉市立南部中学校】
【県立国府高等学校】【県立豊橋南高等学校 生活デザイン科】

6 成果と今後の課題 

 家庭科を中心に据え,教育活動全体を通して食育の推進を図ることにより,「心」「体」「食文化」の面から児童生徒の食に関する実践力を高めることができた。それと同時に,校内の教職員の連携及び保護者への啓発を促すことができた。今後はさらに,教職員に食育の理解を呼び掛け,教職員一人一人がその意義を理解して,学校全体で食育を推進していくことが重要である。また,食に関する総合的な力の育成には,今後の継続的な取組が望まれるとともに,児童生徒の食の学習への興味・関心や主体的な取組をいかに高めるかが大きな課題である。