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【実践報告2】
互いを認め合い,居心地のよいクラスづくりを目指して ―1年間を通したグループ・アプローチを活用した活動を通して―
1 対象集団の状況  本校は,豊田市の中心部にあり,幹線道路が通い交通機関が発達した地にある。学区には,大きな スーパーマーケットや飲食店なども多い。学級は23学級,全校児童は652名である。  本学級の児童は,明るく元気な児童が多い。6年生として,「自分たちが学校を動かしていくんだ !」という気持ちもあり,学校行事を楽しみにしている。任せられた仕事はしっかり行うことができ るが,自分たちの手で更によくしていこうという意欲は低く,「だれかがやってくれる」という気持 ちが強い。クラスの実態は,自分を素直に表現することが苦手だったり,大げさに振る舞ったりする 児童がおり,友達が固定化し,仲がよさそうに見えても,嫌なことをされたときに,自分の気持ちを うまく相手に伝えることができないで悩んでいる児童もいる。男子児童の中には,あげ足を取るよう なことを言ったり,意欲をなくさせるようなことを言ったりする児童もいる。  5月下旬に行った,「Q−Uアンケート」(以下「Q−U」と記す)では,「学校生活満足群=23 人」「侵害行為認知群=8人」という結果であった。この結果から,多くの児童は学級を居心地のよ い集団と感じているように思われる。しかし,先に述べたように,自分の気持ちを表現することや, 仲間との人間関係づくりがうまくできないためにもめごとになってしまっていることも少なくない。 2 支援のねらい  小学校高学年になると,思春期に入り「自分」と「仲間」との関係についてこれまで以上に考える 児童もいる。精神的に自立しようとする反面,一人ではとても不安になり,仲間と一緒にいることに 安心感を覚える。一方,仲間とコミュニケーションがうまくとれないでいる児童もいる。この時期の 発達課題として,バーナードは,「交友の学習」,「良心の発達」を,ハヴィガーストは「自立的な 人間形成」や「社会的な集団に対する態度の発達」などを挙げている。本実践では特に,「交友の学 習」「社会的な集団に対する態度の発達をさせる」といった発達段階を念頭に実践に取り組んだ。  まず,互いを理解し認め合うことができる学級の雰囲気づくりを心掛けた。「予防・開発的教育相 談の推進に関する研究−行事をいかすグループ・アプローチの取組を中心として−(平成15,16年愛知 県総合教育センター)」の実践を踏まえ,心の絆を強める実践を行った。  グループ・アプローチを取り入れることで,自他について見つめ,クラスへの所属感や仲間を理解し 認め合うことができる学級になれば,児童一人一人に学級での居場所ができ,絆が強まると考えた。  この目的のために,自己中心的な傾向がある「侵害行為認知群」の児童の認知の改善を目指して, 「互いを認め合い,さらに高めていくことのできる集団」,「一人一人に居場所があり,居心地のよ い学級」になるよう,実践を進めることにした。本校の児童は,卒業後二つの中学校に分かれてしま うため,卒業前に十分な人間関係を築いてもらいたいとも考えた。 3 支援の方法  学校行事を通して達成感を共有し,自分自身や仲間の頑張りを認め合い,信頼できる仲間づくりを 目指し下記のような活動計画を立てた。 【学校行事と関連させて行うグループ・アプローチ】
学校行事活動の場面ねらい内容
4 入学式
授業参観
 
 
朝の会
帰りの会
学級活動
 
他者理解

感受性の促進
傾聴
「スピーチ」
「よいこと見付け」
「サイレントゲーム」
「むしむし教室の席替え」
5 運動会
 
 
学級活動
 
他者理解
(ハートカード−運動会編−)
「私は,だれでしょう」
6
 
学級活動
 
学級活動
朝の会
道徳
 
他者理解
 
 
 
グループの仲間を紹介しよう
「質問じゃんけん」
クラスの仲間を紹介しよう
「質問じゃんけん」
「今日は,1日こう呼んで」
(ハートカード)
7
学級活動
道徳
他者理解
 
「さいころトーキング」
「こんな友達がいいな」
9 作品展
 
図画工作
 
他者理解
傾聴
「いいねぇ,この作品」
「話を最後まで聞き合おう」
10 修学旅行
 
 
道徳
学級活動
 
他者理解
 
 
「グループで協力しよう!」
「聖徳太子」
(ハートカード−修学旅行編−)
11学芸会学級活動信頼関係(ハートカード−学芸会編−)
1
学級活動
 
他者理解
自己理解
「すごろくトーキング」
「ふわふわ言葉とちくちく言葉」
2 自己を見つめる会
 
総合的な学習
 
自己理解
 
「家族からの手紙」
「カウントダウンカレンダー」
3 卒業式
 
学級活動
学級活動
他者理解
自己・他者理解
「思い出ビンゴ」
「別れの花束」
【日常で行う活動】 @ 朝の会  スピーチ A 帰りの会 「よいこと見付け」 4 支援の効果の確認方法  (1) 「Q−U」を年4回実施  学級満足度尺度と学校生活意欲尺度の二つの尺度がある。この二つの尺度から学級の子供たちの変 容の効果を検証する。  (2) 児童の振り返りカードの記述内容(学級の様子と抽出児童の変容)   ・抽出児童について  抽出児童Aは,自己中心的な面がある。6年生になってすぐに,教師に「友達がほしい」と言って きた。Aの言動は,クラスの中でなかなか理解されないところがある。人のことばかり厳しい口調で 注意したり,非難したりするのに,自分は好き勝手な言動が目に付く。それを仲間に注意されると, 突然泣き出したり,怒り出して教室を飛び出したりすることがあった。しかし,そんなAであるが, 低学年や困っている子に対しては,とても優しく接することができるという優しい一面ももっている。 周りの子に対する感謝や自分の過ちを認めることが素直にできない児童である。この実践を通して, 仲間のよさを認めたり,自分の過ちを素直に受け入れたりすることができるようになってほしい。  (3) 実践学級と他の2クラスの「Q−U」の結果を比較  他の学級と比較することによって,グループ・アプローチを取り入れた学級経営の有効性を検証す る。  (4) 実践後「心の健康と生活習慣の関連実態調査(2000,文部省)」との比較   実践学級の児童が,自分や仲間を認め合うことのできる心の状態であるかを測り,実践の効果を検 証する。さらに,全国と比較することによって,グループ・アプローチの効果を検証する。 5 実践  一人一人がお互いのことを認め合える雰囲気をつくっていく必要があると考え,グループで協力す るエクササイズを中心に行った。エクササイズごとに,前回と違うグループになるようにして,クラ スの仲間のよさに気付くことができるようにした。また,学校行事後の互いの頑張りやよいところを 認め合う場として,振り返りカードの内容を学級通信に載せ,活用していくことにした。  (1) 活動@「サイレントゲーム」1)   ア ねらい  声を出さずに同じ仲間を探し,集まり,話せることのよさを実感する。   イ 活動の内容
@ 血液型別に集まる 
A 誕生月別に集まる 
B 1月1日から12月31日の誕生日順に並び,一つ円になる
C 振り返りカードを配り,記入する。感想を発表する
  ウ 参加者の様子  ルールを説明すると,できるかなというような不安な表情になる児童がいた。活動中は,体全体を 使ってジェスチャーをして仲間を集めていた。三つの活動を成功させることができた。
・声を出さないで集まれるか心配したけど,全部できてよかった(児童A)
・仲間を集めるときに何回も確認したから,安心できた
・声を出せばすぐに集まれるのに,声を出さないのはとてもつらかった
 参加した児童から活動が終わってから,「とても楽しかった」「おもしろかったから,またやりた い」という声が聞かれた。児童の振り返りカードの記入にあるように,互いに確認をしていくことの 大切さを児童自身が感じることができた。また,声を掛け合い,確かめ合うと不安が少なくなること を体感できているように見えた。  児童Aも,楽しく活動することができ,休み時間中に新しい友達をつくろうと「同じ誕生月なんだ ね!」と声を掛けている姿があった。   エ 課題  6年生には,簡単なテーマではないかと心配をした。どのテーマも,成功することにより,達成感 を味わうことができた。短時間でできる活動ではあるが,教室の机を後ろへ運び,場所を広くする必 要もあり,多目的室など教室よりも広い教室など,場所を変えた方がよかった。  (2) 活動A「むしむし教室の席替え」2)   ア ねらい  互いの話を聞いたり,話したりすることの大切さを体験する。   イ 活動の内容
@ 一人に3枚の情報カードを配る
A 自分の情報カードは,グループの仲間には見せない。読むことはよい
B 情報カードから,グループで話し合って席を決める
C グループごとに解答をする
D 活動での気付いたこと,感じたことを振り返りカードに記入する
E グループ内で発表し合う
  ウ 参加者の様子  グループの一人一人が情報を正しく伝えなければ解決できないエクササイズである。グループによ っては,全員の持っているカードを一度全部聞いてから活動を始めるところや,「ゲンゴロウの情報 をもっている人〜」など確認をしながら行っていた。  この活動のあと,「他のバージョンでやりたい」という児童が多かった。聞いてもらえる安心さを 感じることができたようだ。周りのグループが完成し始めると,焦りからかしっかり聞くことがおろ そかになってしまうところもあった。児童Aは,グループの中で中心となりたいと思っていた。しか し,情報カードの内容を収集することができず,グループの児童ともめていた。リーダーになれず, すねた態度を見せた。しかし,「問題を解くために,自分に何かできることがあるよ」と声を掛ける と,気を取り直した。時間はかかったが,最後までグループの仲間と協力して課題に取り組むことが できた。グループの仲間が,辛抱強く待ち続けてくれたことを児童Aに話すと,「次から,気を付け る」と話した。
・話をきちんと聞かないといけないと思った
・聞いていないと,自分のカードをいつ言っていいのか分からなくなってドキドキした
・「もう一回言って」と聞いてくれたから,話しやすかった
・みんなが真剣に聞いてくれるから,すごくうれしかった
  エ 課題  「匠の里」などの情報カードを使った活動も考えたが,児童の実態を踏まえて条件が多すぎない, 簡単なものにした。早く解きたいという気持ちから,グループの中でルールができてしまい,本来の ルールをきちんと理解させる必要があった。グループの話を聞いていないと,どのタイミングで自分 の情報カードが生きるのか,日常の生活にも聞くことの大切さを身に付けさせていくことが大切であ ると感じた。  (3) 活動B「私は,だれでしょう」3)   ア ねらい  お互いの思いがけない一面を知ることで,親しみをもつ。   イ 活動の内容
@ ワークシートに質問事項を記入する
A ワークシートを教師が読み,児童はだれのことなのかを考えて,「私は,だれでしょうカード」
 に記入する
B 本人が,挙手をして答え合わせをする
C 振り返りカードに,自分のことが読まれた時の感想と活動をした感想を書く
  ウ 参加者の様子  教師が集めたワークシートを読み始めると,「Aくん」「Bさん」などの声が上がった。予想して いたことと違うとき,どよめきが起こった。自分のことを読まれている児童は,「分かってくれるか な」という不安が表情からあふれている子,照れくさそうにしている子,当ててくれた時には皆,表 情がやわらぎニコニコとしてとてもうれしそうであった。
・去年から同じクラスだから絶対にあたると思ったけど,知らないこともあった
・みんなのことが,もっと知りたいと思った
・すぐにみんなが当ててくれたから,うれしかった
・仲良しの友達でも,知らないことがあったから驚いた
・みんな同じことを書いている子がいて,びっくりした
 一人一人の意外な一面を知ることができたため,活動後の休み時間には,そのことについて話をす る姿が見られた。友達の知らなかった一面があったことで,「もっとみんなと,仲良くなりたい」と 感想に書いている児童が多くいた。  児童Aの番になると,特にうれしそうにしていたのが印象的である。しかし,「もっと○○だし。 どうせ,空手やっているから男みたいだし・・」などと,だれも言っていないことを,怒った口調で言 っていた。しかし授業後,児童Aに話を聞くと「みんながすぐに当ててくれたから,うれしかった」 といったその気持ちを,素直に自分で表現できるようにさせてあげたいと思った。   エ 課題  自分のことをワークシートに記入することに長い時間を要した。31人分を読み上げて,正解を出す のに2時間分を使った。事前に記入させたが,質問内容を厳選する必要がある。 (4) 活動C「質問じゃんけん」4)   ア ねらい  仲間の好きなものや考えを知り合う中で,仲間の考え方を肯定的に認め合うことができる。   イ 活動の内容
じゃんけんに勝った人が,負けた人に質問ができる。自分がされて嫌な質問はしない
@ 隣の子,グループの子とじゃんけんをする
A 同姓とじゃんけんをする
B 異性とじゃんけんをする
C 振り返りカードに記入し,感想を発表する
  ウ 参加者の様子  「私は,だれでしょう」を行った後だったので,自分が聞きたいことを聞いている児童が多かった。 男子は女子に「何を聞いたらいいのか分からん」と話している児童が5,6人いた。好きな色や食べ 物などを聞いていた。
・犬好きな人がたくさんいて,また犬の話をしたい
・たくさんの人から,たくさん質問をされてうれしくなった
・嫌いなことを聞いてくれる子がいた。そういう質問もいいんだと思った
・同じものが好きだった子が,ほかにもまだいると思うから知りたい
  エ 課題  素直に自分の気持ちを伝えることが苦手で,強がってしまう男子児童は,相手の気持ちを考えた質 問ができなかった。どのような質問が,相手のことをより理解して仲良くなることができるかを,事 前にもう少し時間をとって話し合う必要があった。  (5) 活動D「私のペアは,こんな子です」5)   ア ねらい  @ 偶然ペアになった児童について,項目ごとに予想をして,自己紹介するつもりで発表する  A 日常のペアの子の様子や頑張っていることに目を向けることで,相手の良いことに気付く   イ 活動の内容
@ 男女のペアになるように背中にカードを貼り付け,自分と同じ仲間を探してペアをつ
 くる
A 相手にカードのヒントを出してもらいながら,自分と同じペアをつくる
B 相手のことを考えて,質問に答え,答え合わせをする
C 感想を書く
D 質問や日々の生活の「よいこと見付け」などのできごとから,「ペア紹介」をコンピ
 ュータでつくる
E クラスで発表会をする
F 振り返りカードに,紹介してもらった感想と紹介した感想などを書く
H  ペアで意見交換する
  ウ 参加者の様子  ワークシートの10項目について,「何が好きなんだろう?」「ヒントがほしい」などと言いながら 考えている児童がいた。
・相手が何が好きか,すごく真剣に考えることができた
・予想した答えと違っていたところが二つあった
・理由を聞いたら,なるほどと思った。予想がたくさん当たっていたから,うれしかった
 コンピュータを使って発表会を行った。「10項目のこと以外のことを書いてあげよう!よいところ も書いてあげよう」と意欲的に行うことができた。ふだんの生活の頑張りにも目が向けることができ るように,帰りの会で行っている「よいこと見付け」を掲示できる場を設定した。気軽に書くことも できるように,大きめの付箋(ふせん)を準備しておいた。   エ 課題 「よいこと見付けの木」を始めた時は,良い行いをしているクラスの仲間を見付けると,すぐに書い ている児童もいた。しかし,時間がたつと書いている児童が,固定化していった。ふだんの生活に, 目を向けることができたのはよかった。帰りの会の「よいこと見付け」とタイアップして行っていた が,児童が継続的に,意識していくような手だてを考えていく必要がある。  (6) 活動E「今日1日,こう呼んで」6)   ア ねらい  @ なぜそのように呼んでほしいのかを考えながら,その呼び方で声を掛ける。  A 友達の考え方を知り,理解を深める。   イ 活動の内容
@ 朝の会で呼び方を発表し,その1日は,指定された呼び方で呼ぶ
A 帰りの会でなぜそう呼んでほしかったのか理由を話す
  ウ 参加者の様子  始めは,いつもの呼び方で呼んでいることが多かったが,やり始めると,児童同士で「その呼び方 じゃないよ!」と教え合うこともあった。また,「なんで,○○って呼んでほしいの?」と指定した 呼び方について聞いている児童もいた。いつもと違う自分になるようであった。
・下の名前で呼んでもらったのは,みんなが名字で呼んでいるので,どんな気分かやってみた
 かった。呼んでもらったら,呼ばれ慣れてないから,ちょっと照れくさかった
・いつも呼んでいる呼び方で,つい呼んでしまった。けど,みんなが「違うよ」と教えてくれ
 た
・昨日から,何て呼んでもらおうかお姉ちゃんと考えてきた
・やっぱり,いつもどおり呼んでほしい
 上記の児童の感想からも分かるように,児童なりに理由をもっている。今までの呼び方と違う呼び 方で呼ばれるのを,楽しんでいる児童もいた。   エ 課題  別の名前での呼び方を徹底できなかった。呼ぶ側が,呼び方を忘れてしまうことがあり,教室のど こかに指定した呼び方を紙に書いておく必要があった。また,呼ばれる側にも,つい指定した呼び方 でなくても反応してしまうことがあった。なぜ,指定した呼び方で呼んでほしかったのかを一人一人 がもう少し考える時間を設定した方がよかった。  (7) 活動F「さいころトーキング」7)   ア ねらい  朝の会の日直になった子が,さいころを振って出た目の数のテーマについて話す。   イ 活動の内容
さいころを振り,朝の会でスピーチをする
さいころの目の内容は下記のとおりである
@ 好きな○○      A 先生ってこんな人     B はまっていること
C 今日一日こう呼んで  D 休日(夏休み)の楽しみ   E 今日,頑張りたいこと
  ウ 参加者の様子  スタートしたころは,何の目が出るか分からない不安感が感じられた。しかし,毎日やっていると, さいころを振る掛け声を掛ける児童や「略して〜,好きマル」などと言う児童も出てきて,楽しい雰囲 気で行うことができた。  自分の話したい目を出そうとしている児童や,「僕だったら,D先生の部活の話をしたいのにな」 など,話したい内容をつぶやく児童がでてきた。また,人前で話すことに抵抗がある児童Eは,さい ころの目が1であった。好きなゲームのことをゆっくりではあるが話すことができた。   エ 課題  さいころの目が,何が出るか分からない不安が消極的にさせてしまう児童もいた。「すごろくトー キング」を先に行っておくと,「さいころトーキング」への抵抗は少なくなるのではと思った。また, 日常からスピーチを行っているが,テーマを固定しているので選択できるように工夫したい。  (8) 活動G「別れの花束」8)   ア ねらい  1年間を振り返り,仲間への感謝の気持ちを文字にする。   イ 活動の様子
@ 用紙を一人1枚用意する
A クラス全員から,メッセージを書いてもらう
  ウ 参加者の様子  「クラス全員に,メッセージを書こう」と呼び掛けた。自分の仲の良い友達から書き始める児童が, ほとんどであった。男子は,女子にメッセージを書くことに照れがあったようだが,書き始めると, 男女ともに,真剣に書いていた。修学旅行や日々の生活など,自分とクラスの仲間とのかかわりを思 い出して,感謝の気持ちを書いたり,相手が頑張っていたことを認める言葉を書いたりする児童もい た。   エ 課題  自分がだれに書いたか分からない児童が数名いた。名簿などを持たせて,確認しながら行う必要が ある。 6 結果と考察  (1) 「楽しい学校生活を送るためのアンケートQ−U」の結果より  Q−Uを使って児童の心の変容をみた。5月26日,9月12日,10月26日,3月14日の4回行った。 実践学級の結果は,下記のようである。 Q-U1回目、2回目 Q-U3回目、4回目
【1回目のアンケートで「侵害行為認知群」であった7人の変容】
・B,C,D,E
「侵害行為認知群」→「学校生活満足群」→「学校生活満足群」→「学校生活満足群」
・F「侵害行為認知群」→「非承認群」   →「非承認群」   →「学校生活満足群」
・G「侵害行為認知群」→「学校不満足群」 →「侵害行為認知群」→「侵害行為認知群」
・H「侵害行為認知群」→「侵害行為認知群」→「学校不満足群」 →「非承認群」
【2回目のアンケートで「侵害行為認知群」であった7人の変容】
・I「学校生活満足群」→「学校不満足群」 →「非承認群」   →「学校生活不満足群」
・J「学校生活満足群」→「侵害行為認知群」→「侵害行為認知群」→「学校生活満足群」
・抽出児童A
  「学校生活満足群」→「侵害行為認知群」→「侵害行為認知群」→「学校生活不満足群」
【4回目のアンケートで「侵害行為認知群」であった7人の変容】
・K「学校生活満足群」→「学校生活満足群」→「学校生活満足群」→「非承認群」
・L「学校生活満足群」→「学校生活満足群」→「学校生活満足群」→「侵害行為認知群」
 学級全体の承認得点が平均より高い。学級内の児童が,被侵害得点が左右に広がっていることから, 侵害されていると感じている児童と,そうでない児童がいることが分かる。自己主張ができる児童が, 「学校生活満足群」にいると言われるが,一人一人が,リーダーとしての力はもってはいても,その 力を十分に発揮できないでいる。  4回のアンケートの結果では,12人の児童が良い方にも,悪い方にも変容した。残りの19人の児童 は,「学校生活満足群」の位置にいて,承認得点も高い児童が多い。多少の「承認得点」の増減はあ るものの,「被侵害得点」が増えることはなかった。   ア 学級満足度尺度「Q−U 群別割合の推移」「Q−U 群別割合の推移」  (図1)の結果から,クラスの8割の児童が,学級生活において満足をしていることが分かる。第 1回の調査では,「非承認群」,「学級不満足群」が0人であった。しかし,2回目以降の調査では, 「非承認群」,「侵害行為認知群」「学級不満足群」が2,3人いた。「侵害行為認知群」の児童の 理由として,ちょっとしたものの言い方で,人間関係が変化した児童や向上心の高い児童が,自分の 思っている方向に向かっていないと感じ,それが他の児童から自己中心的だと感じられたためだと考 えられる。 【図1 群別割合の推移%】   イ 学校生活意欲尺度「Q−U 項目得点の推移」    「項目得点の推移」(図2)を見ると,大きな数値的変化はない。学校生活に対する意欲は,高い 割合を1年間持続することができた。  項目別,群別割合に変化があるが,進級した当時と比べればよい方向へと全体の数値は変化した。 【図2 項目別得点】   (2) 児童Aの変容  児童Aは,進級当初「学校生活満足群」に属していたが,対人関係でトラブルを抱える児童や被害 者意識が強いといわれる児童が位置する「侵害行為認知群」に移動した。  児童Aにとって心が揺れ動いた1年であった。この1年,児童Aの自分を変えようと努力する姿が あった。しかし,家庭環境からくる精神的な不安定さのためか,突然泣き出したり,怒ったりという ことが多々あった。周りの児童には,そのようなAを受け入れようとするが,どうしたらよいか分か らずとまどう姿があった。グループ・アプローチを行ったり,教育相談でじっくり話をしたりするこ とで,児童Aが,周りの児童に対して,自分の悪いことは謝ることができるようになり,相手を強く 非難したり,乱暴な言葉を言ったりしなくなったのは,成長である。児童Aは,最後の「Q−U」の 調査では,「学校生活不満足群」に属したが,「中学に行ったら,新しい友達をたくさんつくる。小 学校で失敗したことや成功したことを忘れないで頑張ります」と言って,卒業していった。  (3) 実践学級と他クラスとの比較    同じ学年の他の2クラス(A,Bクラス)の3月の「Q−U」の結果と実践学級の結果を比較した( )。  3クラスの学級満足群の人数,割合を見てみると,定期的にグループワークを取り入れた実践学級 では,「満足群」の割合が8割に達している。  その他の群を見ると,「非承認群」と「学級生活不満足群」の項目では,A組,B組と比べて割合 がとても低くなっている。  また,全国平均と比べてみても,実践学級の値が良いことが分かる。児童の実態や行事などに, グループ・アプローチを定期的に行っていったため,全国平均よりも良い値になったと考えられる。 【図3 クラス別群別割合(%)の比較】  (4)「心の健康と生活習慣の関連実態調査(2000,文部省)」との比較9)  文部省が行った「心の健康と生の関連実態調査」から,平成19年3月に「自己効力感」「不安傾向」 「行動」「規範意識」の中から10項目を選んでアンケートを行った。実践前に同じ調査を実施していな いので,効果測定としては適切ではないが,実践学級の実践後の状態を全国平均と比較した。   ア 自己効力感についての比較  図4は,「自己効力感」について,3項目のアンケート結果である。 【図4 自己効力感】  その中で,「おとなになったらなりたいものがある」では,「当てはまる」と「やや当てはまる」を 合わせると実践学級97%,全国44%と高い値になっている。「やればできると思う」では,「よく当て はまる」が実践学級42%,全国9%という結果となった。「やや当てはまる」を合わせると,実践学級 では100%,全国51%となった。「私はだれの役にも立たないと思う」の項目では,「当てはまらない」 が全国と同じ58%であるが,「よく当てはまる」が,全国7%に対して実践学級では0%であった。 A,B組と比べても,実践によって,自己効力感が高まったとのではないかと考える。   イ 不安傾向についての比較  図5は「不安傾向」について,3項目のアンケート結果である。 【図5 不安傾向】  「わたしは,みんなと仲良くできない」では,「当てはまる」が全国6%に対して,実践学級では0 %。「当てはまらない」は,全国より40%高く84%と高い割合になっている。「学校は楽しいと思う」 では,「よく当てはまる」は実践学級58%,全国14%で44%高い。「やや当てはまる」を合わせると, 全国の54%よりも43%高い97%という結果である。「だれも私を大切にしてくれないと思う」では, 「当てはまる」が全国5%に対して実践学級では0%であった。ここから,学校生活を楽しく感じ, みんなと仲良くしたいと思っている児童が多いことが分かる。自分という存在が,認められていると感 じている児童が多いことも分かった。   ウ 「行動」についての比較  図6は,「行動」について,3項目のアンケート結果である。 【図6 行動】  「私は,友達をぶったり乱暴をする」では,「よく当てはまる」が全国の7%より4%低く3%であ るが,「やや当てはまる」と合わせると,実践学級48%,全国40%だった。「人にすぐ乱暴な言葉や汚 い言葉を使ってしまう」では,「当てはまる」が全国の17%より7%低い10%。「やや当てはまる」を 合わせると,全国63%,実践学級65%であった。二つの項目について高い割合になっている。友達に対 して,たたいたり乱暴な言葉や汚い言葉を使ったりする児童が多いことが分かった。しかし,「私はよ く口げんかをする」という項目では,「よく当てはまる」が実践学級6%,全国21%。「やや当てはま る」を合わせると,実践学級48%,全国61%であった。たたいたり,汚い言葉を使ったりするが,それ が,口げんかの原因へとつながっていないように感じる。   エ 「規範意識」についての比較 【図7 規範意識】  規範意識(図7)について,「約束を守らなくてもよいと思う」では,「当てはまらない」が実践学 級94%,全国85%。「よく当てはまる」と「やや当てはまる」を合わせても,実践学級6%,全国14% となった。  「約束を守る」ことは,互いを信頼することと自覚している児童がほとんどであることが分かる。  本実践では特に,「交友の学習」「社会的な集団に対する態度の発達をさせる」といった発達段階に 焦点を絞って実践に取り組んだ。1年間を振り返ってみると,同性だけでなく異性へのかかわり方に変 化があった。きつい口調で話していた男子児童が,笑顔を見せながら女子と話をしている姿を見るよう になっていった。女子にも男子へ感謝の気持ちを素直に表現できる児童が増えた。  また,クラスのみんなが楽しく過ごすためにレクリエーションを企画する児童に対して,以前は, 「めんどくさい」や「そのゲームは,やりたくない」など反抗的に接していた児童もいた。しかし,グ ループ・アプローチの回数を重ねることによって,反抗的な態度ではなく,「もっとこうしたらいいんじ ゃないの」と建設的な意見を言う児童が増えていった。レクリエーションの準備や片付けなどを一部の 児童が手伝っていたが,「クラスみんなで協力して行おう」という意識が高まり,多くの児童が手伝う ようになったのも,大きな変化の一つである。グループ・アプローチで,互いの頑張りを認め合うこと が自然とできるようになり,成長を促すことができた。  この実践により,児童が互いのことを理解することができるようになったと感じる。また,互いのよ さを認め合う活動を通して,コミュニケーション能力が少しずつ身に付いてきたのではないかと考える。 学校行事に関連させてのグループ・アプローチはこの点で効果があった。自然と互いのよさを見付け,認 め合うことができた。  児童の心の状態は,日々変化している。家庭環境,人間関係,学習,部活動などの環境により変化す る。満足群にいる児童が,いつも,学級生活満足群にいるわけではない。「Q−U」では,測定するこ とが難しいちょっとした心の変化を敏感にキャッチできるよう,教師による個人面談をより効果的に行 っていく必要があると感じた。そして,クラスの児童の実態に合わせて,最適なエクササイズを教師自 身も学ぶ必要がある。今後も,児童が互いを認め合い,居心地のよいクラスづくりを目指していきたい。 <参考資料> 1) 國分康孝『エンカウンターで学級が変わる ショートエクササイズ集』(図書文化1999)p110 2) 『予防・開発的教育相談の在り方に関する研究−構成的グループ・エンカウンターを中心にして−』
(平成12〜14年度 愛知県総合教育センター)
3) 八巻寛治『構成的グループエンカウンター ミニエクササイズ56選』(明治図書,2001)p68 4) 國分康孝『エンカウンターで学級が変わる 小学校編』(図書文化,1999)p132 5) 國分康孝『エンカウンターで学級が変わる 小学校編』(図書文化,1999)p160   八巻寛治『構成的グループエンカウンター ミニエクササイズ56選』(明治図書,2001)p38 6) 『予防開発的教育相談の推進に関する研究 −行事をいかすグループ・アプローチの取組を中心として−』 
(平成15,16年度 愛知県総合教育センター)
7) 國分康孝『エンカウンターで学級が変わる 小学校編』(図書文化,1999)p158 8) 國分康孝『エンカウンターで学級が変わる 小学校編』(図書文化,1999)p178 9) 文部科学省『心の健康と生活習慣に関する指導』(文部科学省,2003) 國分康孝『ソーシャルスキル教育で子どもが変わる 小学校』(図書文化,1999) 河村茂雄『Q−Uによる学級経営スーパーバイズ ガイド小学校編』(図書文化,2004)



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