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【実践報告3】
自分を大切にし,相手を尊重する行動がとれる子の育成を目指して −体・心・命の学習を通して−
1 対象集団の状況  本校は春日井市の中心部の住宅地と商業地のある地域に位置し,生徒数は758名(20クラス・特別支 援クラス2クラス)で,その数は増加傾向にある。  保健室来室者も年々増加している。月別に見ると2学期に来室者が増加する。本校では2学期に学校 行事が集中しており,それらを通して様々な人間関係に悩み相談に訪れる生徒や,ストレスから体調不 良を引き起こし来室する生徒が増加傾向を後押ししている(図1)。  また,保健室には「何もかも嫌になった」「苦しくて泣けてくる」と言って,生徒たちが次々飛び込 んでくる。そんな生徒たちに健康相談活動をしていると,友人関係や家庭・家族の問題を背景とするリ ストカットや性の逸脱行動,また親による虐待など現代的な心身の健康課題を抱え,苦しんでいる姿が 浮び上がる。このような本校の生徒の現状を把握するために,文部省が実施した「心の健康と生活習慣 の関連実態調査」(2000年)1)の項目を使い調査を行った。それによると,「自己効力感」の項目につ いては,どの学年も男女共に全国平均より「よく当てはまる」「当てはまる」が多く,「不安傾向」に ついては「当てはまらない」が多かった。しかし,「行動」や「規範意識」については,「当てはまら ない」はどの学年も男女共に多かった。つまり,自分に自信をもち,自分を大事にすることはできても, 周りの人のことを考えて行動することができない等,社会性が育っていない生徒が多いことが分かった。 【図1 月別保健室来室者数】 2 支援のねらい  中学生は,心身の発育・発達がめざましく,大きなエネルギーを秘めている一方,思春期の急激な体 の変化や,自我の芽生えにより,時には心身ともに不安定になり,不安やイライラが増大し,ともする と自己肯定感情が低くなる時期である。また,交友関係では,同性・仲間同士といった人間関係から, 異性に関心をもち,異性との交際にあこがれを抱くようになる時期とされており,この点でも期待と不 安が入り混じる不安定な時期である。  ハヴィガーストによると,中学生期に当たる青年期で,効果的に習得されるべきそれぞれの発達課題 として「同年齢の男女との洗練された新しい交際を学ぶこと」「男性として女性としての社会的役割を 学ぶこと」「自分の身体の構造を理解し,身体を有効に使うこと」が挙げられている。  この時期に,男女の付き合い方を通して互いの人格を尊重し,望ましい人間関係を築くためにはどう したらよいかについて考えることは,発達課題を達成するために大切なことではないかと思われる。そ こで,平成17年度より本校で実施してきた「体・心・命の学習」にグループ・アプローチを取り入れ, 互いに協力したり心を通い合わせたりすることにより,他を認め,思いやりや優しさをもって接するこ とが,心の発達の支援に有効であると考えた。更にこのような活動は,自他の生命を尊重する態度を養 う上でも効果があると考えた。 3 支援の方法  (1) 研究計画  現代的な心身の健康課題の中で,社会性の欠落や情緒面の未発達が,いろいろな問題行動を引き起こ していると考えられる。目指す生徒像に迫るため,下記のような計画を立てた(図2)。 【図2 集団を対象にした健康教育(心の教育)の実践】  (2) 「体・心・命の学習」指導計画  「いのちの学習指導案例集」(春日井市教育委員会)2)を参考に,「体・心・命の学習」指導計画 表1)を立案し,養護教諭が全クラスで授業を行う。この実践では,生徒の活動をできるだけ多く取 り入れ,人と人とのかかわりを授業の中で体験できるように工夫した。これにより生徒たちが,自ら考 え,相手を理解し,受け入れることができるようにしたり,異性との人間関係や男女交際について積極 的に意見を交換し,自分の考えを共有したりできようになることをねらった。
【表1  「体・心・命の学習」指導計画】

主題ねらい
1年 命の大切さについて考
えよう(学)
(1) 生命のもつ神秘さや力強さに気付く
(2) 自分の命は自分のものであると感じることができる
エイズを知ろう(学) (1) エイズの現状について理解する
(2) エイズの発症の仕組みや感染経路について正しく理解する
1枚の絵(学)★  非言語型のコミュニケーションを通して,自分の役割や性格を知り,
様々な人がいることを知る。
2年 付き合うってどういう
こと?(学)★
 男女の性心理の違いを知り,お互いを認め合い,大切にし合える男
女のかかわり方を考える。
出会い系サイトの落と
し穴(学)
 出会い系サイトの社会的問題を知り,性犯罪から身を守る心構えを
もつ。
こころさがし(学)★  心の機能として喜怒哀楽の感情について,お互いに傾聴し,共感
し合うことで感情交流をする。
3年 HIV感染を防ぐため
に(保)★
(1) エイズ・性感染症の現状を正しく理解する。
(2) エイズ・性感染症の予防についての理解を深め,男女関係の在り
 方を考えることができる
性の自立について考え
よう(学)
(1) 性の自立について考え,お互いの人格や身体・生命を尊重しよう
 とすることができる
(2) 安易な性行為は,性感染症や望まない妊娠につながることを知る
あなたにプレゼント
(学)★
 周りの人の良いところを考え,それを認め,伝えることを互いに行
い,周りから見た自分を知り,自己肯定,自己成長をしようとする。
(学)・・・学級活動 (保)・・・保健体育  ★はグループアプローチを取り入れた授業である
4 支援の効果の確認方法  (1) グループ・アプローチを取り入れた「体・心・命の学習」に対する感想の聞き取りや観察により,   生徒たちの学習効果を確認  (2) 平成17年度と平成18年度に本校で実施した「いのちについての実態調査」のアンケート結果を比   較するとともに,平成17年度に春日井市養護教諭連絡会議が実施した「いのちについての実態調査」  (市内中学生3,005人対象)の市内平均とも比較し,支援実践による効果を測定  (3) 実践後に文部省が実施した「心の健康と生活習慣の関連実態調査」(2000年)のうち10項目につ   いて調査し,全国調査と比較 5 実践  (1) 活動@ 1年生「1枚の絵」3)   ア ねらい  非言語型のコミュニケーションを通して,自分の役割や性格を知り,様々な人がいることを知る。   イ 活動の内容
@ グループ6人から8人に分かれる
A 「1枚の絵」のルールについて知る
B グループ内でクレヨンをリレーしながら,一人が一筆か二筆ずつ描き加えていく
C 5分以内にテーマに合わせてグループで1枚の絵を完成させる。(テーマは「旅行」)
D グループごとに完成した絵に題名を付けて発表をする
E 自分やグループ内のメンバーそれぞれの役割について「あなたはどのタイプ?」の表の中から
  考える
F ワークシートに本時の振り返りを記述し,発表する
ルール
・テーマに合わせてグループで1枚の絵
 を完成する
・どのように描くのか相談はしない
・完成するまで,絵を描いている間も話
 をしない。ジェスチャーも禁止
・一筆か二筆ずつ描く。たくさん描きた
 い場合でも,必ず1回ずつクレヨンを置く
・順番は決めずに描きたい人が描く
 
「あなたはどのタイプ?」
@ リーダー・引っ張る人  
A 協調派・合わせる人・ついていく人
B 寄り道・脱線する人  
C まとめ屋・元に戻す人
D 目立ちたがり屋・自分を主張する人
E アイデアマン・考えの枠組みを大きく変える人 
F 気配り屋・参加者全員に気配りする人
G こだわり派・納得いくまで疑問をチェックする人
H マイペース・控えめな人
  ウ 参加者の様子  スタートの合図とともに,教室が静まり返った。すぐにクレヨンを持って描き始めるグループもあれ ば,しばらく沈黙が続いた後,思い切ってクレヨンを手に取って描き始めたグループ,笑いをみんなで 必死にこらえながら描いているグループ,みんなで頭をくっつけ身を乗り出して画用紙に集中しながら 描いているグループなど,それぞれの特徴が現れた。  グループのすべての絵を掲示して発表会を行ったところ,生徒たちはとても興味を示し,食い入るよ うに絵を見た。  最後に,「あなたはどのタイプ?」の表から自分やグループのみんなのタイプを分析した。「自分が 何タイプかが分かって,自分の意外な一面を知った」「いつもと変わらないと思う。人から見たらどう 見えるのかな?と思った」など,自分を知ることができたという感想を述べていた(自己理解)。また, 「一人一人特徴が出ていた」「その人の人柄が現れるなと思った」「グループの性格が新たに分かった」 など,人はそれぞれに特徴をもっているということに気付くことができた(他者理解)。
【生徒の感想】
・みんななかなか以心伝心できて良い作品になった。席替え前にこの班の良いところが知れてよか
 った。みんなの心が通じ合っていたということが嬉しかった。それに自分が何を描いたか分かっ
 てくれて嬉しかった
・こうやってみんなと話したり,コミュニケーションをとったりすることはめったにないので,今
 日,みんなで協力して絵を描けて良かった
・いろいろなコミュニケーションのとり方があることが分かった。自分のタイプなどが分かってよ
 かった
  エ 課題  順番を決めずに,描きたい人から描くという指示により,生徒たちの特徴がよく現れた。中には全く 描かなかった生徒もいた。一度も描いていない生徒に気を配り,しばらく皆がじっと待っている場面が みられた。描けない生徒を周りの生徒が思いやっていたのであるが,当の生徒はみんなを待たせている ことに困惑していた。この時リーダーとして介入し,描くことが苦手な人は,見ていることを選択して もかまわないということでフォローする必要があった。ルール説明で,描いたり描かなかったりしても よいことや,人それぞれにペースがあり,自分なりのペースで進めればよいことを確認することが大切 である。  クラスの友人関係で悩んで保健室に相談に来ている生徒や,家庭での問題が原因で自信を失って保健 室に頻繁に来室している生徒が,他の生徒とかかわり合いながら活動に参加できるかを観点の一つとし て,このような学習活動を試みた。生徒たちの表情は始終明るく,グループの生徒とクレヨンを譲り合 いながら絵を描いていた。このことから,グループ・アプローチを通して,生徒たちは協力し合い,自 他を認め合う気持ちを養おうとしていることが見て取れた。コミュニケーション能力に問題を感じる生 徒の増加を考えると,今後このような活動を継続していくことが必要である。  (2) 活動A 2年生「付き合うってどういうこと?」4)   ア ねらい  男女の性心理の違いを知り,お互いを認め合い,大切にし合える男女のかかわり方を考える。   イ 活動の内容
@ 「部屋の四隅(はい・いいえ・どちらでもない・わからない)」ウォーミングアップ編を行う。
  テーマ「KAT−TUNの亀梨和也くんはかっこいい」について自分の意見を決め分かれる
A なぜそう思ったか各グループ1,2人意見を発表する(発表時のルール「私は○○と思います。
  なぜなら□□だからです」と発表させる)
B 「部屋の四隅」本編を行う。テーマ「中学生は1対1の男女交際をしてもよい」について自分
  の意見を決め分かれる
C なぜそう思ったか各グループ2,3人意見を発表する(発表時のルール「私は○○と思います。
  なぜなら□□だからです」と発表させる)
D 男女混合のグループに分かれ「中学生の男女交際」について意見交換をする
E ワークシートに本時の振り返りを記述し,発表する
  ウ 参加者の様子  「中学生は1対1の男女交際をしてもよい」を「部屋の四隅」で行ったところ,男女差が明確になり, 女子は「はい」に,男子は「いいえ」に集中した。「どちらでもない」「分からない」のコーナーに, ごく少数の生徒が分かれる場面があったが,どの生徒も堂々と自分が選択した理由を発表していた。グ ループディスカッションでは,あらかじめ「部屋の四隅」で自分の意見を明らかにさせたことにより, 男女交際についての意見がグループの中でも出しやすくなった。ディスカッションを通して他の人の考 え方を知ることができた。
【生徒の感想】
・みんなそれぞれ違った意見をもっていることが分かった。もし付き合うことがあったら,
 相手の考えていることをお互いに理解していくことが必要だと思いました
・人の感情はそれぞれ違っていて,個々にいろいろあるから面白味があった。人の感情と
 いうものは難しいと思った
・人それぞれ意見がばらばらだった。でも私はどれが正解ということは決められないと思った
・異性との考え方に違いがあることが分かった
  エ 課題  初めに「部屋の四隅」ウォーミングアップ編で,人気タレントをテーマに取り入れたため,生徒たち は盛り上がり,アイスブレーキングの効果があった。生徒にとって男女交際については興味がある。 「部屋の四隅」本編で男女交際をテーマにしたため,生徒にとって意見が出しやすかったようである。 あるクラスでは,不登校傾向の生徒が一人で「分からない」のコーナーを選び,意見を堂々と発表した。 これは自分の意見が少数派でも,クラスに受け入れられるという安心感があったからだと考えられる。 少数の意見を堂々と発表できるかどうかには,クラスの雰囲気が影響することが予測され,場合によっ ては発表をためらうようなことがあると考えられる。そのためにも,指導者が一人一人の意見に十分に 耳を傾け,どんな意見も受け入れることができるクラスづくりの姿勢をもつことが必要である。  また,グループディスカッションでは,あらかじめ,自分の意見をはっきりとさせた上でグループの 意見交換をしたため,スムーズに話合いを行うことができた。教師は見守る側に徹した。生徒の活動が 中心で,ねらいが達成できるかどうか不安であったが,生徒同士の交流により,生徒たち自らの力で, 男女の性に対する心理面の違いに気付き,更にはお互いを理解する気持ちが大切であることも感じ取っ ていった。これまで行ってきた一斉指導の形態では,生徒は男女交際についての意見をみんなの前で積 極的に発表できなかった。感想にも「恥ずかしかった」「疲れた」と記述されることが多かった。しか し,グループ・アプローチを取り入れたことにより,生徒たちは,男女のかかわりについて自分の意見 をもち,積極的に発表することができた。それによって,男女の性心理の違いを知り,お互いを認め合 うことへとつなげていった。このことからも,性の指導の別の場面にもグループ・アプローチを取り入 れ,実践を深めていきたい。  (3) 活動B 2年生「こころさがし」5)   ア ねらい  心の機能としての喜怒哀楽の感情について,お互いに傾聴し,共感しあうことで感情交流をする。   イ 活動の内容 活動の内容「こころさがし」   ウ 参加者の様子  グループの中で,さいころの出た目に応じて,学校生活や家庭生活で体験したエピソードを発表した。 次々と話題が出てすぐに3巡したグループもあれば,じっくり話をしたため,1巡しかしなかったグル ープもあった。  次に,グループで一番心に残った話を一つ決めて発表した。自分に自信がもてず保健室へ相談に来て いた生徒は,自分が話した「きれいだな」のテーマが,グループの代表に選ばれてうれしそうだった。  最後に,サイココロゲームを振り返りながら,様々な感情を心の形としてグループで考えながらクレ ヨンで絵に表した。アイデアをいろいろ出し合いながら,どのグループも生き生きと取り組んでいた。  サイココロ(彩心)ゲームでは,ふだんあまり話さない生徒もグループの中で発表することができた。 自分に自信がもてないことから友人関係を上手に築けず,休み時間によく保健室に来室していた生徒は, 話が途中でストップしてしまうことがあった。それでも周囲の生徒たちは,その間じっくり待ち,話を 最後まで聞いていた。このとき,その生徒の表情はとても明るかった。そして,「今日の授業は楽しか った。話を聞いてもらえてよかった」という感想を書いた。個別指導において心配していた生徒が,授 業の力で「楽しかった」と感じたことは収穫であった。
【生徒の感想】
心は人によって感じ方が違うと思った。自分にとってはうれしいことでも,その人にとっては
 うれしいことではなかったり,自分にはどうってことないことでも,その人にとっては悲しか
 ったり,つらかったりすることが分かった。心の表し方も人それぞれだと思いました
・心というのは喜びや悲しみを感じるところで,体のすべて,存在が心だと思う。一人一人もの
 のとらえ方は違い,心には個性があると思う。その心をどう育てていくかはその人の経験だと
 思う
  エ 課題  同じクラスやグループでありながら,日常の個人的な体験で感じた喜怒哀楽について,互いに話をす る機会はほとんどない。サイココロゲームを通して,自分と同じような体験をしている人がいること, 同じように感じている人がいることを知り,共感することができた。また,自分と違った考え方もある ことを知り,他人を認めるきっかけにもなる。継続的な実践が求められる。  本活動では1枚の画用紙に,2色のクレヨンを使って共同作業で心の絵を描いた。これは,生徒にと って難しかった。今後はクレヨンの色の制限をせず,各自で1枚ずつ描くことで,個々の心の様子を自 由に絵に表すことができるように変更したい。そして,自分の感情(うれしい・楽しい・悲しい・悔し い)を表現することによって,ストレスをためないことにつなげていきたい。  (4) 活動C 3年生「HIV感染を防ぐために〜HIV感染症を予防せよ!〜」   ア ねらい  エイズ・性感染症の現状を正しく理解する。そしてエイズ・性感染症の予防についての理解を深め, 男女関係の在り方を考えることができる。   イ 活動の内容
@ HIVの感染経路・感染状況を知る
A プロジェクトチームA〜Hに分かれる
B 資料を基に各プロジェクトチームで予防対策方法を考え,付(ふ)箋(せん)にアイデア
  を書いていく
C 出たアイデアをグループに分けながら台紙にまとめて貼っていく
D グループ分けをしたら,それぞれに予防対策のキャッチフレーズを付ける
E 発表する
ウ 参加者の様子  資料を見た後,どうしたらHIV感染を防げるのかについて,まず初めに自分で予防方法を考える。 そしてそのアイデアを付箋(ふせん)に書いていく。次々と書き出す生徒もいれば,資料をにらみながら, なかなかアイデアを書き出せない生徒もいた。  アイデアの付箋(ふせん)をチームで各自が出し合いながら,それらを1枚の台紙にまとめた。同じ言 葉が書かれた付箋は上に重ねてはり合わせていった。類似したアイデアは近くにまとめて台紙にはり, 更にそれらを小グループに分けていった。生徒たちは相談しながら,「これはこっちのほうが合うんじ ゃない?」「じゃあこれはどうなるの?」など,何度も付箋(ふせん)をはったりはがしたりしながら, 小グループに分けていくことができた。ここまでの活動は,どのチームもスムーズに行うことができた。 しかし小グループに予防対策のキャッチフレーズを付けることに悪戦苦闘していた。  全てのチームの台紙を黒板に掲示し,それぞれのアイデアを確認した。アイデアが生かされ,チーム によって特徴が出ており,お互いの考えを共有することができた。  写真 付箋にアイデアを書く生徒たち
【出されたアイデアの例】
チーム○ <生活>・・・中学生らしい生活をする
     <検査>・・・検査をして早期発見をする,定期的に検査をする
     <性行為>・・・性行為をしない,性行為の正しい知識を得る
     <パートナー>・・・パートナーのことをよく知る
     <勉強>・・・勉強する
チーム□ <理解>・・・日本の国民にHIVについて知ってもらう,身内の人に話す
     <勉強>・・・勉強する,情報収集する
     <予防>・・・注射による薬物乱用はしない
     <検査>・・・検査を受ける,病院に行く
写真 キャッチフレーズを考える生徒たち チームのアイデアを発表する生徒
【生徒の感想】
・HIVを防ぐのは大変難しいと思うけれど,世界で協力し合って減らしていけたらいいと思う。
 そのためには,まず,自分がしっかりと意識して予防しなければいけないと思った
・相手や自分を大切にするためにも,きちんとHIVについて勉強した方がよいと思った
・たくさんのプロジェクトチームの意見が聞けてよかった。命についてすごく考えさせられた。
 HIVにならないよう予防することが大切だと思った
・お互いのことを理解し,考えながら生活していくこと,HIVについてよく知ることが大切だ
 と思った
  エ 課題  性感染症についての授業は,いつも静まりかえった雰囲気の中で進んでいくことが多い。もちろんそ れは真剣に取り組んでいるからなのだが,その一方で男女共にその授業内容を学ぶことへの抵抗感があ った。しかし,グループ・アプローチを取り入れたことによって,生徒たちは男女一緒に積極的にグル ープで意見交換をし,自分の考え方について反省の気持ちをもったり,他の生徒から知識を吸収したり することができた。  本実践は「保健体育」の授業時間に行ったため,活動@「HIVの感染経路・感染状況を知る」では 指導者が,資料を提示し現状を知らせた。今後は保健体育の教育課程のねらいも合わせて達成できるよ う資料を工夫していきたい。  あるクラスでは,「他のグループの台紙をもっとよく見たいから,教室に掲示してほしい」という意 見が出た。この意見を受け,数日後の授業参観で,保護者への理解を得るためにも教室へ掲示した。互 いの意見を尊重したいという生徒の気持ちの高まりを確認できた。  (5) 活動D 3年生「あなたにプレゼント」6)   ア ねらい  周りの人のよいところを考え,それを認め,伝えることを互いに行い,周りからみ見た自分を知り, 自己肯定,自己成長をしようとする。   イ 活動の内容
@ グループのみんなにプレゼントをあげることを知る
A 相談しないで,自分のイメージに合う絵を選び,ワークシートに書く
B グループのそれぞれに,イメージに一番合うカードを選び,はさみで切り,渡す準備
  をする。だれに何をプレゼントするかはだれにも言わない
C 選んだカードに,相手の名前,自分の名前,選んだ理由を書く
D プレゼントするカードをはさみで切る
E プレゼント交換をする
F もらったカードをワークシートにのりではる
G 今日の授業を振り返り,気付いたことや感じたことをワークシートに書く
H 発表する
  ウ 参加者の様子  生徒たちは,卒業間近ということやプレゼントという言葉に,興味深そうな様子を見せた。今回は, プレゼントとしてカードを用意した。カードを見て,「かわいい」という声を上げる生徒もいれば, 「なんだそれ」という生徒もあり,反応はそれぞれであった。  活動が始まると,みんな楽しそうにカードを選び始めた。プレゼント交換の時間になると,一斉に席 を立ち,にぎやかな雰囲気になった。カードを手に握りしめ,一人一人に渡していく姿や,カードを丁 寧に受け取っている様子は,とてもうれしそうで,表情は明るかった。  しかし,中にはカード選びに時間がかかっている生徒も数名いた。これらの生徒には,「○○さんを 見て,パッとひらめいたカードを選んでみたらどうかな?」などと声掛けをした。カードを選ぶことが できても,「理由が書けない」と悩んでいる生徒もいた。「まずは自分と相手の名前をカードに書いて, 時間までじっくり考えてごらん。△△さんのイメージはひまわりだけど,どうしてそう思ったの?」な どと声掛けをしながら一緒に教師と生徒が考えていった。 写真 プレゼントを交換する生徒たち 
【生徒の感想】
・自分が思っている自分と,周りの人が見た自分とは違うんだなあと思った
・自分に「明るい」というイメージをもってくれてうれしかった。客観的に自分のことを見れた
 と思う
・「感動」自分のことをよく知っていてくれたのでうれしかった。「ありがとう」
・自分が何をもらえるか楽しみで,今日の授業はいい!と思いました。周りの人に,自分がどの
 ように見られているかを知ることができてよかった
・自分の考えていたイメージと全然ちがう!!もしかしたら自分のことを知っているのは,自分
 より周りの人なのかも
・カードだけど,思っていることが形にできてよかったと思う
  エ 課題  生徒たちは,新しい自分を発見したり,今まで気付かなかった自分を周りの生徒から教えてもらった りすることで,自己肯定感情が高まっていくきっかけとなったことが,感想から読み取れた。  ある生徒は,活動の途中でカードを渡す相手の名前が分からないと相談に来た。3年間共に学校生活 を送り,卒業間近にもかかわらず隣席の生徒の名前すら知らないという事実から,人間関係の希薄さに 驚愕(がく)することもあった。  今まであまり学級になじめなかった子も,他の子供たちからカードをもらい,とてもうれしそうだっ た。カードにより,相手の自分に対する気持ちを知るという活動は,生徒の自己肯定感情を高めるため のよい機会となった。しかし,中には指導者の支援がなければカードを完成することができない生徒が 数名いたために指導者一人では支援しきれないクラスがあった。このため今後はクラス担任とのTT指 導をも工夫したい。
写真 プレゼントカードをはったワークシートプレゼントカード
6 結果と考察  (1) 「体・心・命の学習」の振り返りと観察  平成17年度より「体・心・命の学習」を系統的に行ってきた。そして平成18年度からは,グループ・ アプローチを取り入れた指導を試みた。活動@から活動Dを行ったことから,これまで行ってきた一斉 指導の形式とは明らかに違い,生徒がグループで他の生徒と意見を交換したり,共同作業をしたりする ことによって,授業のねらいを生徒たちが自らの力で達成していくことができると考えられる。   ア 心の学習  活動@「一枚の絵」,活動B「こころさがし」,活動D「あなたにプレゼント」では,グループでの 共同作業や,自他のよいところを認め合うという体験を通し,自己成長のきっかけとなった。  例えば,活動@「一枚の絵」のねらいは「非言語のコミュニケーションを通して,自分の役割や性格 を知り,様々な人がいることを知る」である。振り返りで,生徒は「自分のタイプが分かってよかった」 「自分が何を書いたか分かってくれてうれしかった」「班のよいところが知れてよかった」などと記述 しており,自己理解や他者理解はもちろんのこと,自分のことを他の生徒に受け入れてもらうことがで きたという実感がもてたということが分かる。中学1年生の時期に,このような活動を行うことで,中学 校生活を通して,自己を肯定した上で,相手を尊重した人間関係を築いていくきっかけにしてほしい。  活動B「こころさがし」では「心は人によって感じ方が違うと思った」「自分にとってうれしいこと でも,その人にとってはうれしいことではなかったり,心の表し方も人それぞれだと思った」など,自 分の感じ方と他人の感じ方は必ずしも同じではないということに気付いた。更に「心というのは喜びや 悲しみを感じるところで,体のすべて,存在が心だと思う」といった記述もあり,活動のねらいである 「心の機能としての喜怒哀楽の感情について,お互いに傾聴し,共感し合うことで感情交流する」こと はもちろんのこと,心とは何かということにまで考えを深めていった生徒もいた。しかし,ごく少数で はあるが「つまらなかった」「よく分からない」という感想を書いた生徒もいた。感情の未発達な今の 子供たちに情緒面を豊に育てる工夫を試みていかなければならない。  活動Dでは,卒業式を間近に控えていたせいもあり,皆とても生き生きと活動をしていた。怠学傾向 のためクラスで過ごす時間が少なかった生徒も,この活動には進んで参加した。指導者の支援を受けな がら,プレゼントするカードを準備し,渡すことができた。近くの席の生徒に手伝ってもらいながら, 自分にプレゼントされたカードを,うれしそうにワークシートにはっていた。そんな姿を見ていると, ほんの少しの支援だけで,生徒同士がお互いに助け合い,認め合い,高め合っていくことができるのだ と改めて実感した。「自分が思っている自分と,周りの人が見た自分とは違うんだなあと思った」「客 観的に自分のことを見ることができたと思う」「自分の考えていたイメージと全然違う。もしかしたら 自分のことを知っているのは,自分より周りの人なのかも」など,生徒たちは,他者の中の自分という 存在を再認識したようだった。ある生徒は1枚を除いてプレゼントされたカードがすべて同じだった。 また逆に全部違う種類だった生徒もいて,大変な盛り上がりを見せた。中には振り返りで「感動。自分 のことをよく知っていてくれたのでうれしかった。ありがとう」「自分が何をもらえるか楽しみで,今 日の授業はいい!と思った。周りの人に,自分がどのように見られているかを知ることができてよかっ た」「カードだけど,思っていることが形にできてよかったと思う」という記述があった。このように 活動Dは,カードを使うことで,日ごろあまりコミュニケーションがとれていない生徒同士が,互いに メッセージを伝え合うことができた。この実践を通して,人とかかわることの楽しさを学んだ生徒もい た。また,何より自己を肯定し,他者の中で成長していくきっかけになった。   イ 体・命の学習  中学生にとって重要な発達課題の一つである「男女交際」や「性」について,活動A「付き合うって どういうこと?」と活動C「HIV感染を防ぐために」でグループ・アプローチを取り入れた。これま でのような一斉指導では,授業の雰囲気が静まり返り,生徒たちは窮屈に感じ,「恥ずかしかった」 「嫌だった」という否定的な感想が必ず見られた。しかし,グループ・アプローチを取り入れることに よって生徒は積極的に意見を述べたり,活発にグループディスカッションを行ったりした。  活動Aでは「男女の性心理の違いを知り,お互いを認め合い,大切にし合える男女のかかわり方を考 える」ことがねらいである。アイスブレーキングの後に行った男女交際についての話合いは,一見,た だざわついていたり意見がぶつかり合っていたりしているだけで,ねらいの達成が困難であるように見 えた。しかし,評価できないような時間が,生徒たちにとっては,自らの力で気付き,お互いの意見を 認め合うことにつながっていくことが振り返りから分かった。生徒たちの感想を見ると,「異性の考え 方に違いがあることが分かった」「みんなそれぞれ違った意見をもっていることが分かった。もし付き 合うことがあったら,相手の考えていることをお互いに理解していくことが必要だと思った」など,深 く考えた振り返りが多くあった。  活動Cでは「エイズ・性感染症の現状を正しく理解し,予防についての理解を深め,男女関係の在り 方を考える」ことがねらいである。振り返りでは,「お互いのことを理解し,考えながら生活していく こと,HIVについてよく知ることが大切だと思った」「相手や自分を大切にするためにも,きちんと HIVについて勉強した方がよいと思った」など,正しい知識をもつことの大切さや,男女が互いに理 解することの大切さについて気付くことができた。更に「たくさんのプロジェクトチームの意見が聞け てよかった。命についてすごく考えさせられた。HIVにならないよう予防することが大切だと思った」 といった「命の大切さ」について実感した生徒もいた。ところが,中には「HIVに感染するのは自分 が悪いんだから仕方ないと思う」といった意見もあり,HIV感染を自分の身近な問題としてとらえる ことができていない生徒もいた。  以上のことから「体・心・命の学習」にグループ・アプローチを取り入れ,様々な活動をすることに より,自分を知り,自分のことを認めてもらったり,相手を認めたりしながら,自分や周りの人は,か けがえのない大事な存在であるということに気付き,自他の生命を尊重する姿勢をもつことができた。 思春期である中学生の時期に,発達課題として男女交際について考え,自他の身体について理解し,他 者を尊重する態度を身に付けることは大切である。この発達課題を達成するための手だてとして,グル ープ・アプローチは有効であったと考える。  (2) 保健室での個別指導  活動@から活動Dを終えた後,ある生徒は,授業後すぐ保健室に「部屋の四隅(活動A)すごく面白 かった!今度また授業で絶対やってね!」と言いに来た。また,保健室での個別指導にも変化が現れた。 友人関係について相談に来た生徒には,「こころさがし」の授業を思い出させながら,人にはそれぞれ 感じ方があって,受け止め方も違うということを再確認させた。すると,生徒は自分のこれまでの言動 を振り返り,友人とのかかわり方をもう一度考えることができ,教室へ帰って行った。男女交際で悩ん でいた生徒も,「男女では性によって違うから,もっと話し合ってみる」と授業後,報告に来た。この ように心の健康教育は,集団指導から個別指導へ,個別指導から集団指導へと繰り返されることにより 一層学習が深まっていく。保健室ではその効果が顕著に現れる。  休み時間のたびに一人で保健室を訪れていた生徒からは,数日後に来室した時,「授業はすごく楽し かった。今まであまり話したことがない人と話せてよかった」という言葉が返ってきた。この生徒は自 分に自信がもてず暗い顔を見せることが多かったが,その時の表情は明るかった。  また,生徒の感想を保健便りに載せ,各家庭に配付することにより家庭にも啓発を行った。どの感想 を載せるかは,筆者が選択した。保健室への来室回数の多い生徒や自分に自信がもてず消極的になって しまう生徒,問題行動のある生徒のものなどをできるだけ多く載せた。学級担任にも協力を依頼し,朝 や帰りのSTの時間にクラスで感想を紹介し,体・心・命の大切さについて確認をした。自分の感想が 載った生徒は,「家に持って帰ってお母さんと一緒に読んだよ。感動してくれた」「クラスのみんなの 前で読まれちゃって恥ずかしかった」などと照れながらもうれしそうに報告に来た。この取組は,自己 肯定感を高める一助としての働きがあったと考える。  (3) 「いのちについての実態調査」(一部抜粋)  自他の命を大切に思う気持ちをはぐくみ,自己肯定感を高めることは,よりよい人間関係を構築する ために大切である。つまり,ハヴィガーストのいう青年期前期の発達課題でもある「洗練された男女の 交際」の支援のためにも,命の大切さを学ぶことは重要な意味をもつと考える。  そこで,平成17年度と平成18年度の「いのちについての実態調査」のアンケート結果を比較するとと もに,平成17年度に春日井市養護教諭連絡会議が実施した「いのちについての実態調査」(市内中学生 3,005人対象)の市内平均とも比較したところ,生徒たちに次のような変容が見られた。  自分の存在や命について質問した項目「あなたは生まれてきてよかったと思いますか」について, 「はい」は平成18年度には平成17年度より1ポイント増えた。春日井市平均(以下市平均)より3ポイ ント多かった。実践年も高い水準を維持したことが分かる(図3)。  「命は大切だと思いますか」について,「はい」は平成18年度には平成17年度の調査や市平均より4 ポイント高く,実践による意識の高まりが見られた(図4)。 【図3 あなたは生まれてきてよかったと思いますか  図4 命は大切だと思いますか】   「自分のことが好きですか」の質問に,「はい」は平成18年度では,平成17年度に比べ2ポイント減 少した。市平均とは同じ値であった(図5)。数字から見ると自己肯定感情が高まったということは言 えない。しかし,これは中学生の時期に自我同一性の発現により,自分を素直に認めることが難しい時 期にあるということが一因ではないだろうか。このような時期にある生徒に,ありのままの自分を受け 入れることができるような支援を考えていきたい。  学校生活や行動を示す項目として「学校生活は楽しいですか」については「はい」の回答が平成18年 度は77%で平成17年度の72%より5ポイント上昇した。市平均は59%であり,13ポイント高い結果であ った。学校生活は楽しいと感じている生徒が実践前から多かったが,実践によりその割合は更に高まっ た。 【図5 自分のことが好きですか】  「人に対して死ね,死んでほしいなどの言葉を言ったことがありますか」の質問に,「いいえ」の回 答は平成17年度34%,平成18年度44%と10ポイント上昇した。市平均は26%であり,実践により乱暴な 言葉を使う生徒が減り,他を尊重する態度は向上した。また,平成17年度と18年度に学校保健委員会で 「いのちについての実態調査」の結果から問題提起をし,命の大切さについて啓発した。その結果,生 徒や保護者から下記のA,Bのような感想を得た。調査をするだけでなく,それらを生徒に還元してい くことや,調査結果について生徒・保護者・職員がそれぞれの立場で意見交換することが非常に重要で あるということを感じた。また,学校保健委員会で「いのちについての実態調査」を知らせたことは, 健康課題をとらえ,解決方法をみんなで考えるきっかけとなった。  今後も思春期にある中学生の心の発達課題を踏まえた上で,生きているだけで価値があるということ を伝えていきたい。学校だけでなく,各家庭へも予防開発的な心の健康教育の重要性を発信し,家庭と 学校が両輪となって,生徒たちの心の発達を支援していく必要もある。学校教育のあらゆる場面で,養 護教諭の専門的力量や特質を生かし,生命尊重の精神を育て,自分や周りを大切にすることができるよ うな生徒たちを育てていきたい。
A   【生徒の感想】
B   【保護者の感想】
(前略)自分のことが好きといえる人は,命
を大切にすることができると思います。それ
は家族や友達を大切にすることにもなるので
いいと思います。
 「一度でも死にたいと思ったことはありま
すか?」の質問に3年生の女子では50%以上
が「はい」と答えていることを知りショック
でした。ニュースでもやっている事件が起き
てしまうのではないかと心配です。少しでも
「命は大切・生きるって素晴らしい」という
思いが,その人たちに伝わったらいいなと思
いました。
 今日の学校保健委員会の調査結果の発表や,
講話はとてもよかったです。
 特に生徒保健委員会の発表された内容は,
□□中学校の実態がよく分かりました。調査
結果では,「自分のことが好きではない」と
いう生徒が多くみられたことが気になります
が,中学生という年齢が,大きく関係してい
るのかなとも思います。
 また,生徒の結果と,親の結果で多少ずれ
を感じる項目があり,親としてはもっと我が
子をみなければと反省しました。(後略)
 
 (4) 「心の健康と生活習慣の関連実態調査」(2000年)  文部省が2000年に実施した調査のうち,「自己効力感」「不安傾向」「行動」「規範意識」の全10項 目について本校も平成19年3月に調査を行った。実践前の調査は行っていないため,実践後の本校生徒 が全国平均と比較してどういう状態にあるか確かめるためのものである。  自己効力感について,「将来やってみたいことがある」では「よく当てはまる」は,全国より40ポイ ント高かった(図6)。 【図6 自己効力感】 「やや当てはまる」を合わせても全国より高い結果となった。「やればできると思う」は「当てはまる 」が全国より12ポイント低かったが,「やや当てはまる」を合わせると本校,全国ともに90%で同じだ った。「他人より価値がないか劣っている」では「よく当てはまる」は全国より39ポイント低かった。 また「当てはまらない」は全国より30ポイント低かった。実践後の本校生徒の自己効力感は高いことが 分かる。  不安傾向については,「わたしはみんなと仲良くできない」の問いに対して本校は全国とほぼ同じ結 果となった。「学校は楽しいと思う」では「よく当てはまる」は全国より23ポイント高く,「やや当て はまる」を合わせても,全国より12ポイント高かった。「だれもわたしを大切にしてくれないと思う」 では「当てはまる」は全国より2ポイント高く,「やや当てはまる」を合わせると,全国より6ポイン ト高かった(図7)。 【図7 不安傾向】  学校生活においてはおおむね満足をしているが,大切にされていると感じている生徒が全国より少な いことが分かる。家庭生活や学校生活の中で生徒が「自分は大切な存在である」と実感できるような支 援が今後の課題である。  行動については,「わたしは友達をぶったり乱暴したりする」では「よく当てはまる」「やや当ては まる」合わせて,全国より8ポイント高く,「人にすぐ乱暴な言葉や汚い言葉を使ってしまう」では 「よく当てはまる」「やや当てはまる」合わせて,全国より8ポイント高かった。「口げんかをする」 では,「よく当てはまる」「やや当てはまる」合わせて,全国より4ポイント低い結果となった(図8)。 【図8 行動】  この調査から,友達に乱暴したり,汚い言葉を使ったりしている生徒が実施後も多いことが分かった。 生徒の行動が変容するような取組について,更なる研究を深めていかなければならない。  規範意識について,「約束を守らなくてもよいと思う」では,「よく当てはまる」「やや当てはまる」 合わせて全国より2ポイント低かった。実施後の本人の約束を守ろうとする規範意識は全国平均並みで あった(図9)。 【図9 規範意識】   (5) おわりに  ハヴィガーストのいう発達課題の一つである「同年齢の男女との洗練された新しい交際を学ぶこと」 は,これから大人へと成長し,社会の一員として生きていくための大切な課題である。本研究では, 「体・心・命の学習」を軸として,生徒たちに様々な支援をした。各学年の実態や発達段階に応じた ねらいにより,グループ・アプローチを取り入れた授業を系統的に行った。中学1年生では,互いに 協力したり,心を通い合わせたりすることにより,他を認め思いやりや優しさをもって接すること, 中学2年生では,男女の付き合い方を通して,互いの人格を尊重し望ましい人間関係を築いていくこ と,中学3年生では,男女の性の在り方や生き方について考えることを,それぞれ目標に実践した。 その結果,生徒は自己理解や他者理解をしながら,やがて訪れるであろう異性との関係や,性の自立 について自ら学んでいった。中学校3年間を通して,系統的な「体・心・命の学習」を行うことは, 中学生期における心の発達の支援に大変有効であることが検証された。  一方で多くの課題も判明した。自分に自信をもち,自分を大事にしようとする気持ちは育ったもの の,相手を傷つけるような言動をしないような生徒を育てるまでには至らなかった。今後は,自分の 感情のコントロールができ,周りのことを大切にする行動がとれるような実践を深めていきたい。  今の日本の社会の出来事を見るにつけ,心の健康教育は今後ますます必要となってくるであろう。 思春期である中学生においては,自我同一性の発現により,自分を認めることが難しい時期にあると 考えられる。しかしながら,ありのままの自分を受け入れ,自他を尊重する態度で,よりよい人間関 係を築いていけるよう支援をしていきたい。 <参考資料> 1) 文部科学省『心の健康と生活習慣に関する指導』(文部科学省,2003) 2) 春日井市教育委員会 春日井市教職員研修委員会『いのちの学習指導案例集 2006』
 (春日井市教育委員会 春日井市教職員研修委員会,2006)
3) 上條晴夫『ゲームで保健の授業』(東山書房,2003) 4) 上條晴夫『ワークショップで保健の授業』(東山書房,2007) 5) 古角好美『セルフエスティームを育てる心の学習』(東山書房,2000) 6) 横浜市学校GWT研究会『協力すれば何かが変わる 続・学校グループワーク・トレーニング』(遊戯社,1994)



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