十六夜日記
(いざよいにっき)


  「十六夜日記」は藤原為家(ためいえ)の側室、阿仏尼(あぶつに)によって記された紀行的な日記である。
 内容に所領紛争の解決のための訴訟を扱い、また女性の京都から鎌倉への道中の紀行を書くなど、他の女流日記とは大きく趣きを異としている。鎌倉時代の所領紛争の実相を当事者の側から伝える資料としても貴重。風景描写は概念的で感動に乏しい面があるが、近世からかなり読まれた。
 大別すると鎌倉への道中記と鎌倉滞在期の二部構成。成立当初、作者はこの日記に名前を付けておらず、単に「阿仏日記」などと呼ばれていたが、日記が10月16日に始まっていることを由来として後世に現在の名前が付けられた。全一巻。弘安2年(1279)〜弘安3年(1280)成立。
     
   


教材化のヒント

 岐阜の墨俣から静岡の湖西市にかけて、愛知県の尾張地方から三河地方にかけて横断しながら名所名跡にちなんだ和歌を残している教材であり、通過する地区の生徒のみならず、愛知県在住の生徒にとって大変興味を喚起し得る本文となっている。
 まずは、自分の居住地の近くで詠まれた和歌の鑑賞を行い、興味をもたせた上で、作者の移動の様子を確認させたい。


 具体的な学習活動例
 ・地図を用意して、経路を鉛筆でなぞる。
 ・現在とは異なる地形について考察する。
 ・どのような古典を念頭において和歌を詠んでいるか、調べて考察する。
 ・和歌の修辞法について調べる。
 ・日記の中に和歌が入ることでどのような効果があるかを考察する。


 身に付けさせたい力 
 ・和歌独特の表現方法を理解する力。
 ・古文に書かれた情報から推論をする力。
 ・地図等多彩なテキストに対応した読む力 。
 ・古文のテキストに基づいて自分の考えを述べる力。





この教材の魅力

「十六夜日記」は、藤原為家(ためいえ)の側室阿仏尼による、所領紛争解決のための京都から鎌倉への紀行文である。後の東海道となるわが国を代表する行程だけに、一つ一つの場面が印象深い上に、愛知県を横断しているために、尾張も三河も、今でもたどり得る場所にまつわる和歌がいくつも詠まれており、県内の広域の学校において、生徒と教材を出会わせやすいところが魅力である。
 阿仏尼の念頭には、当然「伊勢物語」の東下りがあったはずである。わが子為相(ためすけ)を思いやる、生々しくも切なる気持ちゆえに、雅やかな旅とは言い難いが、各地で名所や旧跡を歌に残していく様子には、歌枕の扱い方を子供に知らしめようという魂魄(こんぱく)がこもっていると言えよう。
 出発の経緯を述べた序章は有名である。序詞や掛詞的修辞を駆使した筆遣いは、訴訟という世俗的で煩わしい旅の動機を一級の文学的な動機に昇華させ得ている。本文は全体に簡潔であり、歌自体も技巧は凝らしてあるが複雑な修辞はあまりみられない。全体の分量も、小学館『新編日本古典文学全集』では計36ページとすべてを読破するのに程々である。地元にまつわる部分を扱った上で、有名な冒頭から末尾にいたるまでを完読することで得られる自信は大きいだろう。
 子供のためとは言え、齢(よわい)60に近い身で旅に出た思いが率直に文章と歌に込められており、自らの思いを歌に込めて伝えるという万葉集以来の伝統が、地の文と一体化した作品世界は、実に魅力的である。
 それにしても母親とは強いものである。そして母の思いは万人に分かりやすく、比較的入門期にも適した教材であると言える。


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 作者 阿仏尼(あぶつに)

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