愛知県総合教育センター研究紀要 第99集(平成21年度)

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小中連携による外国語活動の在り方に関する研究

(最終報告)

1 はじめに
 平成23年度からの小学校新学習指導要領完全施行を控え,その先行として,「外国語活動」を導入する動きが活発である。「平成21年度公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況調査」(文部科学省)によると,各学校での5年及び6年の「外国語活動」の実施状況は,全体の97.8%となっている。
 小学校での「外国語活動」が広がりを見せるにつれて,その影響は中学校での英語教育にまで及ぶことは明らかである。その結果,小学校と中学校の外国語(英語)教育に段差が強く認識されたり,英語学習の習熟及び学習意欲の個人差が拡大したりする可能性が懸念されている。韓国では,1997年より小学校で英語教育が始まり,3・4年生には週1回(40分授業),5・6年生には週2回の授業が行われている。2007年に小学校で英語教育を受けていない高校2年生と小学校3年生から英語授業を受けた生徒を比較すると,発音や表現力で小学校から英語教育を受けた生徒のほうがやや優れているが,個人の格差・地域の格差も大きいという報道があった。台湾もアジアの中では小学校英語教育先進国であるが,韓国とは異なり,自治体主体の英語教育が施されている。そのため,自治体間での地域格差が生まれ,また,所得の差がそのまま私塾等での英語教育を受ける差ともなり,個々の児童に大きな差が出ていると指摘されている。こうした例からも,日本においても,「外国語活動」に関して,児童の間に大きな格差が生じる可能性は否定できないと言ってもよいであろう。


2 研究の目的
 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う「外国語活動」が小学校に本格的に導入されることを受け,小学校と中学校の外国語(英語)教育に様々な影響を及ぼすことが考えられる。 
 前年度(平成20年度)のこの研究で,研究協力校による小中連携会議を開催し,連携を実施することから生じる成果と課題を明らかにした。また,学級担任が主となる「外国語活動」の展開事例を紹介した。さらに, 研究協力校の児童生徒にアンケートを実施し,「外国語活動」や英語に関する情意面での実情を明らかにし,今後の小中学校での授業改善につながる方策を検討した。 
 以上のことを踏まえ,今年度(平成21年度)は,小学校の学級担任がより一層安心して「外国語活動」を実践できる環境を整えるために,また,中学校英語教員が小学校で培った生徒の英語力を更に伸長させることができるように,小学校間及び小中学校間での連携体制・協力体制を構築する創意工夫を研究するとともに,「外国語活動」を経験した生徒がスムーズに中学校での「英語」に移行できるような新たな教材の研究開発を試みた。


3 研究の方法
 研究協力校と当センター所員による共同研究の形態で行った。
 研究協力校は学校間連携システムを運用し,その成果と課題を探った。児童生徒及び該当教員に対して,外国語(英語)に関するアンケートを実施して,外国語(英語)教育の実態と前年度(平成20年度)からの児童生徒の変容を把握した。また,コミュニケーション能力を育成する授業改善の実践を試みた。
 センター所員は,「外国語活動」実践の成果の検証,授業改善を目指した教材開発,並びに研究協力校で実施されたアンケートの分析・考察を行った。


4 研究の内容
 今回の研究は,2グループの近隣3校の小中学校,計6校の協力で実施したものである。また,研究期間は平成20・21年度の2年間となっているが,実質的に各研究協力校がこの研究・実践に携わったのは約1年強である。このため,この研究結果のみに基づいて汎用性のある理論や一般論を見いだすことは,ほぼ不可能であることを念頭に置いておかなければならない。その一方で,小中連携という観点からの「外国語活動」に関する研究は,敷地を共有する小中一貫校では数例見られるが,敷地が離れた学校間では実践例が多くないという点から,この研究の意義を示すことができたと言えるであろう。

 (1) 学校間連携について
  ア 概要
 「外国語活動」については,既に多くの小学校で総合的な学習の時間等において取り組まれているが,各学校における取組には相当のばらつきがあるのが現状である。中学校新学習指導要領「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」において「小学校における外国語活動との関連に留意して,指導計画を適切に作成するものとする」とあるように,中学校においては,小学校における「外国語活動」の内容や指導の実態等を十分に踏まえた上で,小学校における「外国語活動」を通じて培われた一定の素地を踏まえて,中学校における英語教育への円滑な移行と,指導内容の一層の充実・改善を図ることが求められている。小中学校を通して,「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能のバランスのとれた育成がなされるよう見直しを図る必要がある。
 そこで本研究では,各学校の外国語(英語)を担当する教員が集まり,授業参観で児童生徒の実態等を把握し合い,児童生徒のコミュニケーション能力の素地を養う活動や授業で活用できる教材等を共有し,また,授業等での工夫を話し合える連携会議(連絡会)を設定し,その成果と課題を検証した。
 研究協力校については,連携会議(連絡会)の開催を念頭に置いていたので,小学校2校と中学校1校の組合せを1グループとし,その3校が近隣にあることが望ましいと判断した。また,その時点で,「外国語活動」に関係した研究の拠点校となっている小学校が県内に複数あり,校内研修等も含めた取組を行っていることから,「外国語活動」に関して,ある1つの中学校へ進学してくる小学校の組合せは,@研究の拠点校1校とそうでない小学校複数校,または,Aすべてそうでない小学校,のいずれかになる(一小一中を除く)ことが分かっていた。
 以上のことから,この研究では,@に該当する組合せとして,小牧市立桃陵中学校,小牧市立桃ケ丘小学校(文部科学省研究委嘱校),小牧市立大城小学校,また,Aの組合せとして,武豊町立富貴中学校,武豊町立富貴小学校,武豊町立衣浦小学校,に協力を依頼した。

     【小牧地区の学校間連携への取組詳細】

     【武豊地区の学校間連携への取組詳細】

その結果,近隣の小中学校が独自に連携を実施することは,それぞれの授業時間の設定の差異や部活動の指導等の校務多忙などのため,大変な困難を極めることが分かってきた。また,実態として,小学校教員は自身の「外国語活動」を実施するのが精一杯であり,中学校との連携まで手が回らないのが実情であるようである。

 イ 今後の展望
 中学校新学習指導要領で示されているとおり,小中連携の重要性は非常に高まってきている。しかし,実情は,小学校「外国語活動」では児童に国際理解の意識と外国語を学ぶ意欲をもたせることが目標である,ということを中学校英語教員は理解していても,「単語くらいは書けるようになって欲しい」「簡単な会話くらいは理解して欲しい」とスキル面での成果を期待してしまうものである。
 そこで,小中連携[図1]をすることによって,中学校英語教員は「外国語活動」の展開を理解でき,小学校教員は,他の小学校の様子を理解して,統一指導内容の検討をすることができ,中学校の英語の授業を見て,小学校の授業内容の改善へ結び付けることが可能になる。
 また,授業参観等で小学校外国語活動の実態を理解し,その活動内容と中学校での活動内容を接近させ,児童生徒の学習の円滑な接続を図ることもできる。小中学校のそれぞれの言語の使用場面の例にある「道案内」「買物」といった活動を考える際には,それぞれの発達の段階を考慮し,同じ活動の繰り返しにならないように配慮することもできる。さらに,小学校で扱った単語リスト・表現(文法)リスト,児童の評価カードや作品など資料共有,小中学校で教えるべき内容の分担の理解,小学校での指導内容や英語に関する疑問点を尋ねることができる人間関係も獲得することができるのである。

角丸四角形吹き出し: 連携会議での協議事項(例)
図1 連携会議での協議事項(例)


このように,小中連携は,外国語(英語)教育において,大変重要な役割を果たし,児童生徒の学習に大変有効に作用するものと考えられる。
 また,どこがイニシアティブをとって連携を推進するかを今後考えていく必要がある。「平成21年度小学校における英語活動等国際理解活動指導者養成研修」(平成21年10月 静岡市で開催)で述べられているように,市町村教育委員会が主導して,小中連携による外国語活動に関する研修を推進することが望ましいと考える。今回の研究で,近隣の3校をグループとして連携を依頼したが,大変な苦労を伴って連携を実施していたことが明らかになった。小牧市では,「小学校英語教育推進委員会」を設立し,カリキュラムの検討等,市全体で「外国語活動」の指導体制の確立を目指し,さらに,「小牧市英語教育研究会」で小中連携の在り方等を検討している。また,武豊町では,町教育委員会による教科研究会を活用して,小学校「外国語活動」の担当者と中学校英語教員で「外国語活動」に関する連携を比較的円滑に取ることができた。こうした市・町教育委員会の動きは興味深い示唆であると考えられる。
 以上のことから判断すると,小中連携は,外国語活動の研修をより有効なものにする機会として,また,外国語活動の理念等の理解の場面として,市町村教育委員会が推進役となって実施することが望ましいと思われる。
 なお,この点において,小中連携と同様に小学校間の連携も重要な役割を果たすことが分かってきた。ゲームや歌等の活動の洗練を求めて研究協議をしたり,教材を共有したりできる等,お互いにメリットがある部分が大きい。

     【「平成21年度小学校における英語活動等国際理解活動指導者養成研修」報告詳細】

 (2) 授業改善について
  ア 概要
 前述したとおり,今回の研究は,2グループの近隣3校の小中学校,計6校の協力で実施したものであり,3回のアンケートで延べ2,200名程度の児童生徒から回答を得た。前年度(平成20年度)に,研究協力校の児童生徒にアンケートを実施し,次のような結果となった。
 情意面全般で高い値を示している小学校は,外国語活動の研究拠点校で,全校体制で研究に取り組んでいることから,学級担任の外国語活動の授業づくりに取り組む意識が非常に高いと考えられる。1年から6年まですべての学年で外国語活動に取り組んでいることもあり,学校での研究授業の実施や全職員で外国語活動に取り組む体制ができている。その一方で,それ以外の小学校では学級担任が中心となって授業を展開しているが,5・6年生のみであり,職員全員で外国語活動に取り組む体制にまだなっていないようである。情意面での差違は,外国語活動の授業の進め方によると考えられる。
 また,中学生アンケート結果から,小学校段階で見られた情意面での差をかき消すほどの大きな要因が中学校入門期に存在しているようであると推察できる。文字がテストの点数に大きくかかわってくるのが中学校1年生1学期期末テストからであり,中間テストに比較して平均点がかなり下がり,それに伴って「英語が難しい」「英語が分からない」「英語は嫌いだ」という意識が高まるのではないかと考えられる。さらに,小学校では,「聞くこと」「話すこと」の活動が中心であるため,教員からの称賛を中心とした評価が多く行われるが,中学校では,テストの点数というかなり強い評価のフィードバックが生徒に与えられ,テストの点数に直結する文字に対する意識が強くなる。その影響もあり,中学校で「話すこと」「聞くこと」に関するフィードバックは相対的に小さくなるのである。
 以上のことをまとめると,以下の2点になる。

角丸四角形吹き出し: @ 小学校で外国語活動の授業の進め方により,情意面で差が生じてくる。
A 中学校では,小学校で見られた情意面での差はなくなっている。その原因として,中学校で新たに文字を扱うことによる「文字への抵抗感」と小学校で慣れ親しんだ「話す活動への評価のフィードバック不足」が考えられる。











 したがって,授業改善の観点から,中学校1年生の入門期に,小学校で慣れ親しんだ英語の音声と文字との関係を学ぶ指導を充実させ,英語の音声を聞いて,ローマ字流の綴りではなく英語の綴りが思い浮かべられる力を身に付けさせる教材開発に取り組んだ。今年度(平成21年度),中学校1年生向けに,英単語を精選しそれらを易から難へと配列したフォニックス教材を開発し,小学校「外国語活動」での成果を生かすような授業展開の方策を探っていくことにした。フォニックスとは,英単語の発音を学ぶ方法のひとつで,英語圏では子供に読み方を教えるための教育方法である。フォニックスでは,例えば「発音 /k/ は c, k, ck のどれかで書かれる」のように,ある発音がどの文字群と結び付いているかを学び,それらの文字の発音を組み合わせて知らない単語の正しい発音を組み立てる方法を学ぶことができるものである。
 小牧地区では,中学校1年の英語授業数は週4時間,そのうち2時間をTTで行っており,TTの時間には,特にペアやグループでのコミュニケーション活動を多く取り入れるようにし,さらに,授業のウォーミングアップとして当センターで開発したフォニックス教材を用いて,音声指導を継続的に行うことにより,英語らしい発音を常に意識させるようにした。一方,武豊地区の中学校では,年度当初から毎時間授業冒頭で10分ずつ前述のフォニックス教材を活用したり,授業の導入部分で,小学校外国語活動「英語ノート」附属のCDと電子黒板を用いて,口頭で内容の説明をしたりしている。


     【小牧地区の活動実践報告詳細】  

     【武豊地区の活動実践報告詳細】 

 各地区の実践から,小学校における外国語活動でのゲームや歌などの教材開発や工夫は,比較的順調に行われていることが明らかになった。小学校での指導では,1つの英文を児童に定着させ,発話させるのに授業1コマを使うくらいのペースで活動を展開することもあるほど,丁寧な指導をしている。また,教員は,ことあるごとに児童を誉め,良好な人間関係を維持している。日本語では,褒めることに慣れていなくても,英語を使うと,教員も褒めやすく,ジェスチャーまで付けて褒めることもあるほどである。
 また,中学校では,今回の研究で中学校1年生向けに開発したフォニックス教材(英単語を精選しそれらを易から難へと配列した)を試用し,テストの結果を検討した結果,その有効性が検証できたと考える。

     【小中連携に生かす文字指導の教材開発の詳細】  

     【開発したフォニックス教材<付録>】

  イ 今後の展望
 今年度(平成21年度)の研究で,小学校で形成された英語が好きであるという気持ちを持続したまま,中学校で「英語」のスキル面での向上を目指す方法を試みた。今回開発した教材のさらなる改良に努め,どの英語教員にも容易に利用できるものとする必要がある。また,その指導法についても,ある程度マニュアル化して、汎用性を高めることが望ましいと考える。
 「話す活動への評価のフィードバック不足」の観点からの授業改善も必要であったが,時間の制約等もあり,体系的な改善には着手できなかった。しかし,様々な有効な改善案が考えられるはずである。例えば,「外国語活動」で育成された音声面での能力を十分に活用できるコミュニケーション活動の開発や,「言語の使用場面」や「言語の働き」に基づいた継続性のある言語活動の開発などが挙げられるが,これらの点については今後の研究に期待する。

 (3) アンケートによる実態調査
 前述の通り,3回のアンケートで延べ2,200名程度の児童生徒から回答を得た。前年度(平成20年度)と今年度(平成21年度)に同様のアンケートを実施し,特に前年度「外国語活動」を経験した小学校6年生が,中学校1年生になり,英語の授業でどのように変容してきたかを把握した。結果の概略は次のようである。
 「英語の授業で,楽しいと思うときは,どんなときですか」という問いに対して,小学校の結果と同様,中学校でも「ゲームをやっているとき」が一番多い回答である。特徴的なのは,「英文・単語を読めた・書けたとき」と,読んだり書いたりする内容についても,楽しいと感じている生徒が多いことである。難度を増加させる「読む活動」「書く活動」ではあるが,達成感や充実感を感じることができる活動でもあるからであろう。
 「英語の授業で,困ったと思うときは,どんなときですか」という問いに対して,「会話でどう言えばいいのか分からない」「発音の仕方が分からない」「先生や友達の言っていることが分からない」という回答が多かった。それは「外国語活動」では「教え込まない」ことが強調され,「分からないことがあってもいいんだよ」などの言葉掛けを行うことが多いが,その曖昧さ,練習の不徹底さが,「ちょっとした困った感」をつくっていることは明らかなようである。また,「外国語活動で日頃あまり話さない子と話したり,男女間で話したりすることをどう思いますか」という問いに対して,好意的な回答は30%程度である。「外国語活動」の成果の1つに,「日頃あまり話さない子と話したり,男女間で話したりする機会があるので,クラスの人間関係が良くなる」があるが,他の教科の授業ではゲーム的な活動に取り組むことが大変難しいので,ゲーム的な楽しい活動を主体とした「外国語活動」が果たす役割としても,日頃あまり話さない子や男女間での会話の体験は大きなものであるのではないかと考えられる。
 「英語の授業で,困ったなあと思うときはどんなときですか」という問いに対しては,「書けない」「読めない」という内容の回答が多く,予想どおり,文字を通して読んだり書いたりする活動が最大の困難であるようだ。また,「小学校の英語の授業が,中学校の英語の授業で役立っていると感じますか」に対しては,「小学校で習った単語が中学校で出てきたとき」という回答が圧倒的に多かった。これは,小学校段階で多くの英単語に触れさせ慣れ親しむことで,中学校の英語におけるコミュニケーション活動への意欲を増すことにつながると考えられる。特に子供たちが興味をもっている事柄に関する英語を知っていることは,中学校でのコミュニケーションの幅を広げる結果となるであろう。

 以上のことから,次のような示唆が導き出された。

ゲームは,授業を楽しくさせ,意欲の向上につながるが,その楽しさの内容は吟味する必要がある。単なる「ゲームが楽しい」ではなく,学びの要素を含むゲーム的活動を行うことが望ましい。
小学校では,新しく学習する英単語や表現を楽しく学ぶためのドリル的活動,並びに,分け隔てなく話ができる人間関係作りを目指す会話活動を多く設定したい。
中学校では,文字指導を丁寧に行うとともに,英語による本物のコミュニケーションの場を教室で確保する活動を多く設定したい。

    【アンケート結果と分析・考察詳細】

5 現状の再考
 今回の小学校・中学校・高等学校の学習指導要領の改訂は,下[図2]のイメージ図で表されるとおり,「コミュニケーション能力」の育成をそのバックボーンとしている。

   図2 今後の小中高外国語教育におけるコミュニケーション能力
      の育成のイメージ

小学校外国語活動で,「コミュニケーション能力の素地」の育成,つまり,@コミュニケーションに対する積極的な態度,A英語を聞くこと,英語で話すことに慣れ親しむことができる音声的な力,を児童に付けることを目標としている。
 中学校では英語の授業で,「聞くこと」「話すこと」に加え,「読むこと」「書くこと」の育成を明示することで,小学校における外国語活動ではぐくまれた素地の上に,これらの4つの技能をバランスよく育成し,「コミュニケーション能力の基礎」を築くことを目指している。
 そして,高等学校では,生徒の「コミュニケーション能力」の育成を目指し,授業を英語で展開することを基本とする。これは,教員が授業を英語で行うとともに,生徒も授業の中でできるだけ多く英語を使用することにより,英語による言語活動を行うことを授業の中心とすることである。その目的は,生徒が,授業の中で,英語に触れたり英語でコミュニケーションを行ったりする機会を充実させるとともに,生徒が,英語を英語のまま理解したり表現したりすることに慣れるような指導の充実を図ることである。
 このように,新学習指導要領は,英語を「学ぶ」だけではなく,英語を「使える」ようにするための一連の流れを作り上げている。
 こうした状況を踏まえて,現状を再考すると,各学校間の接続が円滑に行われるか否かがクローズアップされてくる。先に修了した学校での学習事項を後の学校でいかに活用するかが今後鍵になってくるであろう。
 中学校と高等学校の接続については,どちらの学校においても,「英語」は「教科」として扱われ,その目標を目指して,スキル面の指導を前面に出して行っている。また,どちらの学校においても,高校や大学の入学試験の影響を受けていて,「英語」を取り巻く状況は酷似していると言っても良いであろう。
 しかしながら,小学校と中学校の接続については,小学校「外国語活動」が「教科」ではなく,スキル面の指導や能力向上ではなく,コミュニケーションに対する積極的な態度の育成を目標とするのに対し,中学校では,前述したように,スキル面の指導を中心に「英語」の授業を展開している。また,扱う言語材料の量も小学校と中学校とでは大きく異なる。「外国語活動」と「英語」を結び付ける線が微妙にずれていることが伺える。[図3]


 図3 現状の再考

 以上のことから,中学校「英語」の果たす役割が見えてくる。中学校英語教員こそが,小学校「外国語活動」で育成された児童の能力を,ずらすことなく「英語」で育成する能力へ変容させることが必要である。そうすることによって,小学校から高等学校までの外国語(英語)教育の一貫性が維持されることになる。
 今回の研究で,中学校「英語」の授業改善を試みたが,大変難しいものであった。その基にあることは,小学校外国語活動の目標と中学校英語の目標が有機的に結び付いていないことであると考えられるが,このことはここでは扱わないことにする。新学習指導要領では,中学校「英語」の単位数が3単位から4単位へ,学習する語彙数が「900語程度まで」から「1,200語程度」へ増加するが,それらは,小学校外国語活動を経験し英語を好きになった生徒を,その情意を維持させたまま,中学校でスキル面での力量を付けるために活用されるべきである。決して,高校入試対策のためだけに使われてはならない。その意味において,中学校英語教員への期待は大きく,果たすべき役割は重要で,今後,更なる創意工夫を伴った授業の改善を研究する必要がある。また,その後,そうした能力を兼ね備えた生徒が高等学校へ入学してくることを踏まえて,高等学校の授業も,新学習指導要領にあるとおり,英語で行うようにしなければならない。そうすることによって初めて,「英語が使える日本人」育成のための行動計画(平成14年度 文部科学省)にあるような,「国民全体に求められる英語力 −英語でコミュニケーションできる−」,つまり,中学校卒業段階で英検3級程度,高等学校卒業段階で英検準2級から2級程度の英語力を付けることが可能になるであろう。[図4]


図4 「英語が使える日本人」育成のための行動計画(平成14年度 文部科学省)

 平成21年3月に,高等学校新学習指導要領が告示され,小学校で「コミュニケーション能力の素地」を作り,中学校でそれを「コミュニケーション能力の基礎」へと発展させ,さらに高等学校でそれを「コミュニケーション能力」へと進化させる方向性が示された。
 今回の研究では,小学校と中学校での連携を扱ったが,長期的な展望として,前述の「英語が使える日本人」の育成計画を踏まえて,中学校と高等学校,高等学校と大学等の上級学校,さらに,実社会との連携まで視野に入れ,国家プロジェクトとしての英語教育を考えることが望ましいと考える。そして,その際,それぞれの校種間での連携については,児童生徒の実情を把握し,よりよい指導計画を考えるためにも,ぜひ実施していきたいものである。


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