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「文学者の愛した蒲郡」(2)

竹島
 温暖な地ゆえ、病を得た作家の養生のためにも蒲郡は適していたようで、山本有三は昭和5年に、静養地として蒲郡を訪れています。昭和24年に発表された小説「無事の人」では、「目の前には、緑の海が美しく広がっていた。遠くに、かすみのように、淡くたなびいて見えるのは、このうち海を抱いている渥美半島であろう。あちこちに、いくつも島がちらばっている。近くには、竹島がくっきりと姿をあらわしていた。」と、蒲郡の海辺の光景を描写した後で、「この景色を見ていると、どこに戦争があるのかという感じである。」と主人公に語らせています。また,「右門捕物帖」「旗本退屈男」で知られる、北設楽郡津具村出身の佐々木味津三も、蒲郡で療養生活を送っています。
           竹島

 佐々木の友人でもあった尾崎士郎は、幡豆郡吉良町生まれで、20年近くをかけて完成させた『人生劇場』では、主人公青成瓢吉(あおなりひょうきち)が上京する時に、汽車の通過駅として登場しています。「窓のそとには蒲郡の海が瀲えん(※注)とかがやき、長い白砂の浜が月光に照り返して、少年の日の記憶を一ぺんに唆(そそ)りたてた。」という表現には、これから大学に入ろうという青年の鋭気が象徴されていると言えるでしょう。

  現在活躍する作家では、古代中国に取材した作品で知られる、直木賞作家宮城谷(みやぎだに)昌光が、蒲郡市三谷町出身です。宮城谷が師事した、立原正秋の「舟の旅」にも蒲郡は登場しています。また、平成10年(1998)に第120回芥川賞を受賞した平野啓一郎も蒲郡生まれです。

(※注・・・「えん」の字は、さんずい+艶)


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