伊勢物語
(いせものがたり)
平安時代初期に成立した歌物語。諸本によって多少異なるが、約125段から成り、一段ごとに一首ないし二、三首の和歌が含まれている。「昔、男ありけり」といった書き出しで知られているように、ある男の「初冠」(ういこうぶり)から始まり、二条の后との恋、東下り、惟喬親王(これたかのみこ)との親交、晩年の辞世の歌と、一生の歴史を述べたような形になっている。主人公は在原業平(ありわらのなりひら)を想定したものと言われ、物語の中には業平の和歌が数多く使われている。業平が、在原家の五男で近衛の中将であったことから、「在五が物語」(「源氏物語」総角の巻)「在五中将の日記」(「狭衣物語」)などとも呼ばれる。
作者について
諸説あり不明である。各段の中心となっている和歌は、昔から在原業平の作であると考えられる。したがって、在原業平が自ら記した極めて小さな作品が存在していて、その後何人もの手が加わり、業平作でない歌をも抱え込む形で成立したものではないか、と推定されている。