鶉衣 (うづらごろも)
「鶉衣」は、名古屋の俳人横井也有によって記された俳文集である。 俳諧の心を散文に生かした俳文は、芭蕉のころに意識されだし、也有の「鶉衣」によって完成の域に達したと言われている。 自然の情趣・人情・世の中の時事を、平易な言葉を用いながら、和漢の詩歌や故事・ことわざを自在に使用して軽妙洒脱(しゃだつ)に表現している。 縁語・掛詞・対句の利用も巧みで、流麗巧緻(こうち)な文体を作り上げている。 「鶉衣」とはつぎはぎの衣のことをいい、也有は誠にお粗末な文章の寄せ集めという謙遜の気持ちで書名を付けている。 也有の没後大田南畝(おおたなんぽ)が前編三巻を天明7年(1787)に、後編三巻を翌年に、江戸蔦屋(つたや)から出版。 さらに石井垂穂(いしいたるほ)により、続編三巻・拾遺三巻が文政6年(1823)に名古屋永楽屋から続刊された。
俳文は教科書に教材として取り上げられることが少ないので、まずはその面白さを「奈良団賛」のように短く分かりやすい文章で理解させ、興味をもたせたい。そして、也有が前津に隠居した53歳の秋につづった「歎老辞」の読解を通して、俳文への理解を深めると同時に、軽妙洒脱な文章の中に語られた作者の老境に入った心境を読み取らせ、名古屋の俳人横井也有に興味をもたせてみてはどうだろうか。
また、『日本古典文学大系 近世俳句俳文集』(岩波書店)に掲載されている「知雨亭記(ちうていき)」(前津にあった隠宅とその周辺の様子、隠宅の名前の由来について書いた文章)や『横井也有全集 中』(名古屋叢書三編 第17巻)に掲載されている「内津草(うつつぐさ)」(春日井内津への旅の様子を書いた道中記)「袷(あはせ)かたびら」(初めて江戸勤番へ出掛けた時の名古屋から江戸までの道中記)など、生徒になじみのある土地の記述がある俳文の紹介もしてみたい。
![]() ・どのような和漢の詩歌や故事・ことわざを用いているか考えさせる。 ・どのような表現技法を用いているか考えさせる。 ・文中にあるユーモラスな表現を指摘させる。 ・作者について調べさせる。 ・付句の実践や俳文の作成をさせる。 ![]() ・俳文の滑稽洒脱(しゃだつ)な表現を読み取る力。 ・作品に利用されている修辞法、和漢の詩歌や故事、ことわざなどを理解する 力。 ・古文のテキストの読解を自分の文章に生かして表現する力。
この教材の魅力
永井荷風が「鶉衣」について、「死ぬまでにどうにかして小説は西鶴美文は也有に似たものを一二編なりと書いて見たいと思つてゐたのである。鶉衣に収拾せられた也有の文は・・・・・・日本文の模範となるべきものとなすのである。其の故は何かといふに鶉衣の思想文章ほど複雑にして蘊蓄(うんちく)深く典故によるもの多きはない。其れにも係はらず読過其調(そのしらべ)の清明流暢(りゅうちょう)なる実にわが古今の文学中その類例を見ざるもの。・・・・・・」(「雨瀟々」)と述べているとおり、鶉衣の各文は表現が簡潔で、分かりやすい。また、韻文的なリズムがあり、立体感がある。教養の高い風流人である也有は、その豊富な知識に基づいて、和漢の故事を文章中にちりばめ、雅語・俗語・漢語を自由に操り味わいのある文章を書き上げている。
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