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この教材の魅力

 「十六夜日記」は、藤原為家(ためいえ)の側室阿仏尼による、所領紛争解決のための京都から鎌倉への紀行文である。後の東海道となるわが国を代表する行程だけに、一つ一つの場面が印象深い上に、愛知県を横断しているために、尾張も三河も、今でもたどり得る場所にまつわる和歌がいくつも詠まれており、県内の広域の学校において、生徒と教材を出会わせやすいところが魅力である。
 阿仏尼の念頭には、当然「伊勢物語」の東下りがあったはずである。わが子為相(ためすけ)を思いやる、生々しくも切なる気持ちゆえに、雅やかな旅とは言い難いが、各地で名所や旧跡を歌に残していく様子には、歌枕の扱い方を子供に知らしめようという魂魄(こんぱく)がこもっていると言えよう。
 出発の経緯を述べた序章は有名である。序詞や掛詞的修辞を駆使した筆遣いは、訴訟という世俗的で煩わしい旅の動機を一級の文学的な動機に昇華させ得ている。本文は全体に簡潔であり、歌自体も技巧は凝らしてあるが複雑な修辞はあまりみられない。全体の分量も、小学館『新編日本古典文学全集』では計36ページとすべてを読破するのに程々である。地元にまつわる部分を扱った上で、有名な冒頭から末尾にいたるまでを完読することで得られる自信は大きいだろう。
 子供のためとは言え、齢(よわい)60に近い身で旅に出た思いが率直に文章と歌に込められており、自らの思いを歌に込めて伝えるという万葉集以来の伝統が、地の文と一体化した作品世界は、実に魅力的である。
 それにしても母親とは強いものである。そして母の思いは万人に分かりやすく、比較的入門期にも適した教材であると言える。


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作者 阿仏尼(あぶつに)

愛知県とのかかわり

本文

教材化のヒント

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魅力ある授業のために(単元化例)