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7 テストBの結果とその考察

平成21年度高等学校入学者数学学力テストB の問題・正答率・誤答率・主な誤答

(1) 2次方程式に関してその根本的内容を意識させたい。         表13

  H1921の2次方程式に関する問題・正答率を13にまとめた。上位群は例年正答率が高いが,下位群の正答率は,H1990%に対して,H2021はそれぞれ66%,59%と大きく下回っている。その原因は展開・整理後の2次方程式の形にあると考えられる。
 
21についてはx2 という誤答が12.7%あり,その誤答の原因としては,式変形をしてx4 となったときに,「x 2乗したら4だから・・・ 2だ」と簡単に考えてしまったことだと思われる。これは,xk (k 0) 型の方程式の解が√kと-kの2つがあるという基本が十分定着していないことに起因しているといえる。この誤りは,例年A問題やT問題でも多くみられるものである。
 H
20についてはx12という誤答が5.6%あり,その原因として次の①~③の場合が考えられる。

この①~③について,因数分解に気づいたかどうかで違いはあるものの,共通した誤りとしては両辺をxで割ってしまったことが挙げられる。
 一方,H19の方程式は展開し整理した後の形が因数分解に気づきやすく,正答率が高い。この形の因数分解は生徒にとって取り組みやすく,迷わず解けるものであろう。しかし,方程式が苦手な生徒の中には解x=-13は,(x1)( x3)0における下線部の符号の逆のものであるという機械的な流れで答えを出している者もいるのではないだろうか。このことから,因数分解を用いて解く方程式の根底にある「AB=0ならばA=0またはB=0」がほとんど意識できていない生徒も少なくないと考えられ,これがH20の誤答③にもつながっているといえる。
今後の指導に向けて

 2次方程式の指導の大きな流れとしては,与式をaxbxc0の形にした後,因数分解するか,それが不可能ならば解の公式を利用して解くというものである。H21x4についても因数分解に習熟していればx40として(x2)(x2)0と解くこともできるが,x4は「乗したら4になるようなxを求めよ」と式を言葉に翻訳させ,それはすなわち「の平方根」を求めることだと意識させたい。そして,そのときに平方根は正と負の2つあるという基本をここで再確認させたい。
 
因数分解できる方程式についても,機械的に解を求めさせるのではなく,「AB=0ならば0または0」という根底に流れる内容をつかませた上で解かせたい。


(2) 場合の数を確実に数え上げるための工夫をさせたい

 []6)はさいころに関する確率の問題である。さいころの問題については,中学において必ず取り上げられる内容であり,無答率は低いが正答率は59.3%と決して高いとはいえない。誤答としては,2911.3%であった。2つのさいころについての問題なので,すべての場合の数は36通りで,baが奇数になるのは9通りであるが,先に挙げた誤答は数え漏れがあり,baが奇数になる場合を8通りとしたものと考えられる。

今後の指導に向けて

 ある事柄の起こる確率は,対象の事象をいかに「漏れなく・重複せず」数え上げるかが肝要である。方針を立てず思いついた順に数えるのではなく工夫が必要である。基本的なものとしては樹形図や表であり,本問については右のような表を作ることで漏れなく数えられる。
 高校においての場合の数・確率というと,公式nPrnCrを使って解く問題が多くあるが,数え上げは場合の数・確率の基本となるので丁寧に指導していく必要がある。


(3)関数からグラフをイメージ出来ない生徒が多い。
 

ここ数年,変域に関する問題は2次関数を題材として出題し,60%の正解率であった。今回は,反比例のグラフを出題したところ,同じ傾向の問題であるにもかかわらず,正答率は48%であった。
 誤答について見てみると,グラフをイメージせずに,「xが最小値のとき,yも最小値をとる」と考え,x3のとき,y2であるとして解いたa6という誤答が全体の28%もあった。

 【今後の指導に向けて

昨年の分析にも「関数f(x)が単調増加ではない場合に,グラフを利用することが有効」と述べたが,グラフのイメージができない生徒は,今回のような定義域・値域の問題を間違えやすい。このような生徒に対する指導が今後の課題である。
 今回その一つの方法として提案するのが,プロジェクターや電子黒板などに代表されるICT機器と,過去にも紹介したGrapesなどに代表されるグラフツールの活用である。その利点としては,①変化の様子を動的に表す事が出来る,②正確なグラフが瞬時に示せる,などが挙げられる。
 活用例としては,Grapesがサンプルとして最初から持っている2次関数の最小値を表示する機能の利用などが挙げられる。変化の様子を動画などで見せて説明すれば,理解が進む場合もあるだろう。また生徒自身が操作して,最大値や,最小値の変化の様子を調べる等,工夫次第ではいろいろな授業展開が可能である。


(4) 問題文から関係式を導くことが出来ない生徒が多い。
 (1)xの範囲が0x3なので,点Pの移動距離がそのまま△PADの高さになり,面積を容易に求めることができるが,(2)xの範囲が6x9なので,点Pの移動距離から△PADの高さを計算する必要があるため,正答率が低く29%しかなかった。問題文から関係式を導くことができない生徒が多くいることが分かる。
 【今後の指導に向けて
 新学習指導要領解説の数学的活動における配慮事項に,「日常生活における事象を数学的に表現して,処理した結果をもとの事象に戻し,その意味を考えることが大切である」と書かれている。このような数学的活動に数多く取り組むことにより,数学的表現の良さを見直す機会にしたい。例えば,以下のような例題を考えさせてみてはどうだろうか。
 
例題1 長さ80cmの針金を折り曲げて長方形を作る。長方形の面積を最大にするには長方形の
      縦と横の長さをそれぞれいくらにしたらよいか。

  例題2 1個160円のりんごと1個130円のみかんを合わせて20個買い,これを200円のかごに
      入れ,代金の合計を3000円以下にしたい。りんごをできるだけ多く買うとすると,りんごは
      何個買えるか。ただし,消費税は考えないこととする。
 特に,例題2は日常生活にありがちな問題設定なので,数学の有用性を実感できるいい例題であると思われる。

(5) 基本的な円周角の問題は定着率がよい。   
 [1](10)は円周角を求める問題である。今回は過去数年の中で最高の正答率となり,特に上位群では100%であった。考えられる補助線がACまたはADに限られ,どちらの補助線を引いても解にたどり着くことができるため,良好な結果となった。また,直径の円周角が90°であることはかなり定着している。
今後の指導に向けて
 今回の結果から,円周角の定理に関する基本的な知識は,ある程度定着しているように思われるが,下位群の約4割が不正解であることから,すべての生徒がきちんと理解しているわけではない。円周角の問題に限らず,図形分野を苦手としている生徒は結構いるので,図形分野の指導に際しては基本的な問題でも定理や公式を確認して丁寧に指導する必要がある。

(6) 平行線をひくことによってできる図形の性質を再確認させたい。
 [4](1)は問題文をよく読んで,図や証明を完成させる問題である。正答率は高かった。

 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの中ではⅢが最も正答率が高かった。また,ⅠまたはⅡが不正解でⅢが正解だった割合は全体の22%にのぼり,この中の多くは証明の結論「△DPC=1/2△ABC」と直前の「(Ⅲ)=△DPC」を見比べてⅢの面積が△ABCの半分であることに気づき,イを選択したものと考えられる。すなわち結論から逆にたどって導いたと考えられる。
 [4](2)の正答率は(1)に比べ低かった。三角形の相似の関係からPMを求め,BMから引けばよいのだが,気づかなかった者が多かったようである。1.5及び2という誤答は台形APMDをAD=PMの等脚台形だと見た目で判断したことが原因と考えられる。また,見た目から1と答えた者も多かった。

今後の指導に向けて
 (1)(2)とも平行線を引くことによってできる三角形に関する問題である。(1)の平行線を利用した等積変形は,活用する場面が多くあるので類題を解かせて定着を図りたい。また,(2)の平行線を引くことによってできる相似な三角形の問題についても,相似な三角形に気付かない生徒もいるので,平行線を引くことにより,どこに相似な三角形ができるかを丁寧に指導していきたい。いずれにしても,平行な補助線を引くことによりいろいろな考え方ができるようになるので,一度これらのことを再確認してまとめておく必要がある。
(7) 図形を苦手としている生徒に自信をつけさせ,図形問題を好きにさせたい。
 

[5](2)(3)は立体の体積を求める問題である。いずれもπをつけ忘れた誤答が多かった。(3)64πは(1)の答から円柱の体積の半分を除いた後に,円錐の上部の体積を加え忘れたものであった。
 上位群と下位群で正答率の差が大きいことと,テストA[5](2)の正答率が低いことから,下位群の中には円錐の体積を求める段階からつまずいている者も多いと考えられる。

今後の指導に向けて
 図形を苦手としている生徒の中には,円錐の体積公式が定着していない者もいる。実験で円錐の体積が円柱の体積の3分の1であることを見せるなどして定着を図りたい。また,体積の足し引きを考える手助けとして3DGRAPES等のコンピュータソフトで映像を提示するのも効果的と思われる。これらの工夫によって興味関心を高めることができれば,理解も深まり図形問題に対する苦手意識を軽減できると思われる。

           目    次
1  調査の趣旨及び処理   5  テストAの結果とその考察
2  調査結果の概要   6  テストBの結果とその考察
3  分析結果の概要   7  テストTの結果とその考察
4  調査問題の妥当性と信頼性     
 平成20年度高等学校数学標準学力検査の結果とその考察(PDF 528KB)